どんどんとめどなく膨らんでいくこの気持ち
脳裏どころか眼の裏にまで焼きついてしまったあなたの顔
名前すら知らないのに
素朴な感じの綺麗な顔
小さな命に気づく優しさ
それしか知らないのに
こんなにも好きになってしまって
あなたのことがもっと知りたい
あなたと話してみたい
けれど俺にはそうする勇気がない
雨に打たれているあなたに傘すら差し出せないのだから
colors
4 −勇気の色−
もう頭の中が真っ白だった。
あの青い傘はやっぱりあの人のだったんだ。
あの人はいつもと変わりなく、俺の隣に来た。
駅前のバス停と違って、ここのバス停には屋根がない。
だから濡れてしまう。いつも差してる傘はここにはないから。
だったら俺が傘を貸してあげればいいじゃないか。
でも、なかなかそう言い出せない。
いつも女の子に話しかける時は簡単に口が開くのに。
今は、まるで鍵でもかけられたかのように開かない。
言ってみて、遠慮しますって断られたらどうしよう。
気持ち悪がられたらどうしよう。
違う。一番怖いのはそんなことじゃない。
俺の顔を覚えてくれてるだろうか
それが一番怖いんだ。
俺はこんなにもあなたを好きなのに、
あなたに俺という存在に気づいてもらえてないかもしれない。
それが、とても怖い。
あの小さな猫にも気づく人だから、それはないかもしれない。
けど、やっぱりダメなんだ。
そうこうしているうちにバスが来てしまった。
俺は逃げるようにバスに乗り込んだ。
実際、俺は逃げたんだ。
「…はぁ」
いつの間に俺はこんなに臆病になったんだろうか。
これが本気の恋だから慎重になっているからだろうか。
でも、怖いから逃げてしまったんだ。
最低だ、俺。
最低で、カッコワルイ。
「はぁ…」
「リュータ、リュータ!」
サイバーが何かしきりに叫んでいるが、耳に入らなかった。
自分の情けなさに溜息ばかりが出て、それどころじゃなかった。
「リュータ、先生がコッチ見てるってば!」
「はぁ…」
ガツーンッ!
「いってぇーー!!!」
「リュータ。お前、そんなに俺の授業がつまらないか?」
どうやらDTOが俺めがけてチョークを投げたらしい。
見事に額に直撃。ナイスコントロール。マジで痛いです。
「後で職員室に来い」
「さっきから呼んでたのに気づかないのがいけないんだよ」
サイバーにも言われ、周りのみんなはクスクス笑っていた。
…本当にカッコワリィ…。
「失礼します…」
最近よく職員室来るなぁと思った。
それだけ俺が何かやってるのは確かだけど。
「先生、来ましたよー…」
「ああ、少し待ってろ」
DTOの机のそばまで行くと、DTOは珍しく(俺から見ればだけど)何か仕事のものを書いていた。
たまに、本当に仕事する気あんのか分からない時がある。今日はしてるけど。
「リュータ、お前さ」
「…はい?」
「逃げると後で引きずるぞ」
「えっ…」
胸にズキンと来た。
机に向かっていてDTOの顔は見えない。だから何が言いたいのか、よく理解できなかった。
「…どういうことッスか?」
普通、何もなしでこんな言葉は出てくるはずはない。
「お前、好きな奴がいるとか言ってただろ」
ああ、サイバーがうるさかったあの時か。
あの後授業が終わってからサイバーからは質問攻めにあったが、DTOからは特になかった。
何かいつもと違うと思ったけど。
「ずっとだんまりしてたってことは、その相手に話しかけたことすらないだろ」
うっ…なんで分かるんだよ。
「そういう時は逃げないで正直にぶつかってみろ。玉砕したってお前の人生終わらないだろ」
アンタには俺の微妙な心境は分からないだろ。
そう言い返したくなったが、それはそれで俺が逃げたとDTOに言うようなものなのでやめた。
「それに…残しておくとキツイのは自分自身だ」
その言葉だけ、さっきとは違う感じに聞こえた。
なんて言ったらいいのだろうか。
そう、まるで
「DTOもそういう経験あり?」
一瞬、DTOの手が止まった。
「…想像にまかせる」
自分だけ秘密ですか。それでも別にいいけど。
…でも、きっとDTOも俺と同じような気持ちになったことがあるんだろう。
そして自分はその気持ちを今でも引きずってる。
その様子が今の俺と重なったんだろうな。
だから俺にこんなことを言うのだろう。俺の勝手な想像だけど。
「で、用はそのことだけッスか?」
「いいや。これだ」
そう言って、DTOは俺にプリントの束をよこした。
これってもしかして…。
「ここのところオレ様のありがたい授業を聞き流してるお前へのプレゼント。月曜までにやって来い」
…やっぱりこの人は俺の気持ちなんて考えちゃいないと思った。
学校もバイトも終わった帰り道。
どことなく最近の雨の中で一番スッキリしているように思えた。
雨――もし、あの傘があの人のなら。
そんな気持ちが俺の足をある場所へと向かわせた。
あの猫がいたバス停へ。
気持ちは早くと急かすのに、一歩一歩が重く感じる。
けれども足取りはしっかりしていた。
徐々に近付くに連れて、心臓の音が大きくなっているような気がした。
そして視界におかか行の文字が見えた。
そこにはクリーム色の猫を抱えたオレンジの髪のあの人がいた。
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あとがき
ついにここまできましたよ。
DTOがありえないです。以上(ぉぃ
2004/12/30