星の数ほどの勘違いと 誤解と思い込みの螺旋
回り道の回り道で 少しずつ見えてきた輪郭
今は思い込みでも何でもいいや
取り合えずあの辺りまで歩いてみようかと思う
colors
5 −純粋な色−
いるんだ、そこに。
やっぱりあの人だった。あの傘の持ち主は。
俺は、今この時しかないと思った。
―逃げると後で引きずるぞ
―そういう時は逃げないで正直にぶつかってみろ
玉砕したってお前の人生終わらないだろ
今更ながらDTOが言った言葉が身にしみてきた。
でも、どうやって話しかけよう?
お姉さん、今帰り? 送ってこうか?
…これじゃナンパじゃないかっ。
なんか、なんかないのかよ俺の頭!
なんでこんな時に限って言葉が出てこないんだっ。
「あっ…」
タイムリミット。
バスが来てしまった。
よく見るとあの人は猫を抱えたままだった。
そして、そのままバスに乗り込んだ。
バスは俺の前を通り過ぎて行く。
ちらっと見えたあの人の横顔は、とても嬉しそうだった。
良かったな、お前。こんなに優しい人に拾われて。ついでに言うと羨ましいよ。
そう思いながら、遠ざかっていくバスを見送った。
バス停にはあのクリーム色の猫の代わりに茶色の鞄が取り残されていた。
なんだか、心が落ち着いた。
明日の朝、きちんと話しかけるんだ。きっと大丈夫。そんな気がした。
ん?
鞄が取り残されて…?
「えぇぇー!?」
あの人、鞄置き去りにしちゃってる!?
見た感じ会社勤めっぽいけど大丈夫なのかよ!?
「…」
俺が慌ててもしょうがない、よな。行っちゃったんだし…。
でも、こんな所に置いておいたら盗まれそうだよな。っていうか盗んでくださいって言わんばかりだし。
「…そうだ!」
俺が届けてあげればいいんだ。明日の朝には会えるんだし。
その鞄を取って、俺は一気に駆け出した。
足取りがかなり軽い気がした。
翌朝。いつもの時間。
普段は反対側の歩道から見ていたアパート。
ここにあの人が住んでいる。
名前が分からないから何号室に住んでいるかは分からない。
鞄の中身を見れば分かるんだろうけど、それは俺の良心に反するような気がしてやらなかった。
だからこうやってアパートの前で待ってる。
「なんか、緊張するな…」
閑静な空気が余計に緊張感を増させる。
心臓なんか口から飛び出しそうなぐらいだ。
ふと見上げた空は、昨日までの雨を想像させない青空。
視線を戻すと、あの人が階段を降りてくるのが見えた。
今度はもう、逃げない。
こっちに向かってきたあの人はどうやら俺に気づいたらしかった。
なんとか平常心を保って、俺は口を開いた。
「おはようございます!」
「おはようございます」
その人は笑顔で返してくれた。
「君、いつもバス停で一緒の…」
「は、はい!」
そう言われて、嬉しさのあまりに飛び上がりそうな自分を抑えた。
俺のこと、覚えてくれていた。
「あ、あの…これ!」
「あ! 僕の鞄…! 君が拾ってくれたんですか?」
「たまたまバス停に忘れていくとこ見たんで…」
「ありがとうございます! もうなくなってると思ってた…」
鞄を受け取るとその人は安心したような笑顔を見せた。
なんていうか、めちゃくちゃ可愛いんですけどっ!
「えっと、僕は佐藤っていうんですけど、君は?」
「リュータです!」
「リュータ君…。何かお礼をしたいんですけど…」
「いいえ! そんな!」
俺は浮かれてて、気分は上昇気流に乗った状態だった。
佐藤さんっていうのかぁ…。
あれ?
今…佐藤さん、僕って言ってたような…?
「…あ、あの…つかぬ事お聞きしたいんですが…」
「はい?」
「佐藤さんって…女性、ですよね?」
すると佐藤さんは少し黙り、困ったような笑いをした。
「…すみません。僕、男です…」
……はい?
今、なんとおっしゃいました?
オトコ? おとこ?
懲りない男 マスラオカモン ――じゃなくて!
男ぉぉぉぉ!!??
「…大丈夫ですか?」
「だ、ダイジョウブデス…平気ッス…」
あまりの衝撃的な事実に、このまま風にでも飛ばされたいぐらいだった。
よくよく見れば確かに男物のスーツ着てるし、鞄もそうだし…。
でもすごく綺麗っていうか可愛いっていうか…そんな顔してるし、背丈も俺より低くて、声もそこまで高くないから女の人って言われたら絶対そう信じる。
っていうか、そう信じてた人物がここに一名。
つまりは俺の勘違いで思い込み?
「すみません…」
「いいですよ、よく間違われてるんで慣れてますから」
当の佐藤さんはそんなことあまり気にしてないようで、まるで花のような笑顔をしていた。
やっぱり可愛い…。
「はやく行かないとバス来ますよ? 今日、僕は自転車なんで」
「は、はい…」
俺の視界を横切ろうとするオレンジの髪がとても綺麗だった。
男だって分かっても、胸の高鳴りは変わらなかった。
「またね、リュータ君」
「あ…はい! また!」
またね、というたった一言。
それだけでなんだか元気が出た。
うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。
それは偶然でもあったり、必然でもあったりするけど
俺が佐藤さんという色を見つけられたことは
偶然や必然じゃなくて
運命、なんじゃないかって思う
それほど、俺はこの人が好きになってしまったんだから。
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あとがき
Pureはリュサトの曲だと思った人挙手!(何
何?私だけだって? …ソウデスカ。
リュサトもの第一部終了です(ぇ
なんかリュータが果てしなくアホな子でごめんなさい!っていうかリュータはアホだから!(ぉぃ
2005/1/18
幸 ゆきな
おまけ。その日放課後に六さんの家にやってきたリュータ君。
「…なんだよ、しめった顔しやがって」
「…六さん」
「ん?」
「愛に性別は関係ないでしょうか?」
「……」
「……」
「別に関係ないんじゃないか? 好きなら」
「本当ですか!?」
「まぁ、俺はそう思うが」
「そっか…。俺、頑張ります!」
「なんだかよく分からんが…頑張れよ」
「はいっ!」
こうしてリュータの恋愛奮闘気が始まる(何