考えてみれば、自分からの場合、いつも“気になる”だけで終わっていた。
小学生のときは、気がつけばその子は引っ越してしまって。
中学のときは、その子が先輩に告ってOKもらっていたのを見てしまって。
最近気になったあの子は、友達になったものもそれ以上の気持ちに発展しなくて。
他にも自然消滅していったときもあった。
今回は違う。
真っ白なノートにインクを垂らしたように
はっきりと、明確に。
恋に落ちたと。
colors
2 −恋の色−
バス停の、しかも俺の隣に来た時は正直びびって、目の前を見ることしかできなかった。
そう、この人と同じバスに乗ったのだ。
丁度いいのかどうか、バスには俺とその人以外乗客はおらず、でも俺はその人の座った席から後ろに離れた席に座った。
胸の高鳴りみたいなものはおさまらなかったから。
この人はどんな会社に勤めてるのだろう、今この人は何を考えてるのだろう。
その人を見つめながら、そんな考えだけが頭の中を駆け巡った。
気がつけばバスは学校の前に到着していて、危うく本当に乗り過ごすところだった。
それほどまで、俺はあの人に釘付けになっていた。
もしかしたら、一緒のバスに乗ったこともあったかもしれない。
英語の小テストなんかまともに答えがかけていたかさえも分からない。
あの人の姿が頭から離れなくなってしまった。
数日の後のこと。
先生に呼び出され、再小テストの紙を返された。
「やればできるんじゃないか」
「…」
自分でも信じられない。
満点。例え再テストだろうと一番苦手な英語で満点を取ったのだ。
最初は呆気にとらわれてしまったけど、次第に顔がほころんだ。
もしかしたら、あの人のおかげ?
なんてことを考えてしまったり。
「ところで…なんかあったのか、お前」
「な、なんかって…俺は至って普通ですよ?」
予想もしなかった言葉に、俺はぎょっとしてしまった。
そんな俺の様子を見て、先生は呆れたような表情をした。
「いつもと文字の書き方が違う。ついでに遅刻常習犯のお前が、ここ数日遅刻が一回もない」
「え…そ、そうですか? べ、別に悪いことじゃ――」
「それに、授業中居眠りしなくなったと思えば、上の空。…バイトのしすぎじゃないのか?」
俺は反射的に肩をすくめてしまった。
ここ数日の遅刻なしは、本当にあの人のおかげなのだ。
そして、授業中に上の空になってしまうのも。
また一目見たくて。できれば、なるべく長い時間見ていたくて。
そういう想いがあって、前よりも早くに家を出るようになった。
電車から降りた先までは一緒。その後、バス代節約のためもあって、あのバス停までは歩いた。
何度か歩いたことのある道だったので、迷わずに行くことができた。
割と距離があるはずなのに、疲れなんてものは全くなかった。
あの時刻。
それに間に合うように。
そこで待っていれば必ず会えるから。
「バイトもいいが、体壊しちまったら、もともこうもないからな。気をつけろよ」
まあ、一応担任でもあるから、気にはしてくれたんだなと。
俺は一礼して、職員室を出た。
「その日どうやら、アニキが酔ってたところをその友人が見かけたらしくて――」
そういえば、あの人はあの雨の日とその次の日、そして今日以外、バスには乗らずに自転車で通勤していた。
ここ数日はずっと晴れだったけど、あの人がバスに乗った日は雨だった。
雨の日はバスで通勤しているのだろうか。
だったら、早く梅雨になってほしい。ずっとあの人の顔を見られるから。
「家まで連れてきてもらったんだぜ。仕事帰りの人にさ――」
あの初めて会った日の翌日、あの人はどこか嬉しそうだった。
見た感じ、新社会人って感じだ。きっと業務で何かうまくいったんだろうな。
その笑顔がたまらなく綺麗だった。
「それでな、そのアニキの友人が明日も仕事で早いからっていうのに、アニキってば――」
「…」
「…ちょっと、リュータぁ!! 聞いてる!?」
「え!? あ、何?」
うなだれる自称ヒーローで俺の友人、サイバー。
どうやら何か熱心に話していたらしかった。
「…もういい」
「なんだよ。だったら最初から話すなよ」
「…なぁ、リュータ。最近、お前変だよ。突然遅刻はしなくなったと思ったら、一日中ぼーっとしてるし」
「別になんだっていいだろ」
「もしかして……地球を偵察しにきた宇宙人に脳みそいじくられたのか!?」
思わず、俺はイスからずり落ちた。
なんでそうなるのか。っていうかむしろそれはお前じゃないのかと。
コイツの考えはたまに分からない時がある。
「その反応からすると、そうじゃないみたいだな…」
「おいおい…」
「あっ。じゃあ、もしかして――」
またとんでもないことを言い出すんだろう。
コイツの勘じゃ絶対当たらない。そう思った。
「好きな人でもできた?」
ビクリと肩を動かしてしまった。
その後、どうすることもできずに硬直する。
なんで、こういうときに限って当たるのだろうか。
「お!? 図星だな!? やりぃっ! オレ様ってやっぱりすげーよなっ!」
得意げに胸を張って言う、自称ヒーロー。ヒーローっていうよりかはガキ。
こんな性格の奴がヒーローでいいのかと、たまに呆れてくる。
「…そんなもんだよ」
「相手は誰? 学校の人? それともバイト先の人?」
きやがった。サイバーの質問攻め。
これが始まると、先生が来るか俺が正直に話さないと、コイツは黙らない。
「ねぇ〜ねぇ〜。教えてくれよ〜!」
次、英語だけど、早く先生来てくれーっ!!
「おい、そこ。もうとっくにチャイムは鳴ってるぞ。席に着け」
「よっしゃっ」
「せんせ〜! リュータが好きな人教えてくれない〜っ!」
「へぇー…」
うわっ。今、明らかにそういうことだったのかって顔されたし。
「栄木。とりあえず席に着け。そういう話は休み時間にしろ」
「ちぇ〜っ」
一応は助かった。
でも、きっと授業の後にヒーローサイバーと担任DTOの尋問があると思うと、嫌になってきた。
絶対言うものか。
でも、授業開始からものの十分足らず。
そんな嫌なことも、あの人のことでかき消されてしまった。
ふと、俺はノートに目をやった。
(何かいてるんだよ俺…)
この状態でも、無意識に板書をノートにとっていた。
でも、そのノートの空いたところには、あの人の横顔が描いてあった。
俺は絵がうまい方じゃない。だけど、この横顔ははっきりとあの人だと分かるもので。
しまいにはオレンジのペンで髪の色まで塗ってしまっている。
つまりは俺の頭の中には、あの人の顔が完全に焼きついているのだ。
ノートには他にもこう書いてあった。
『あなたが好きです』
真っ白だった俺というノートに塗られたインクは
あの人という色のインク。
どうやら、相当重症な恋の病らしい。
今さらだが、そう自覚した。
そして、これが完全な初恋であるということにも。
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あとがき
ポエマーリュータ大炸裂。
そんなヘタレなリュータが私は好きだよ(何
なんか微妙にくさくてごめんなさーい…orz
ちなみにこのサイトだとサイバーの苗字は栄木(さえき)です。
フルネームでいうと栄木雄之。これでもひねったんだから(ぇ
2004/11/24