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VAGRANCYより






I am selfish.
〜Midnight〜












―どうか、私の我侭を聞いて欲しい―





 ふと、サムスは目を覚ました。どうやら部屋に戻ったのはいいものも、そのまま眠ってしまっていたらしい。
 時計を見ると、時刻は夜中の0時になっていた。
 もう一度眠ろうにも眠気は全くなかった。窓から外を見てみると、雪は降っていないが寒そうだった。
「…」
 どう思ったのかサムスは上着代わりにショールをはおい、部屋から出た。




 真夜中の談話室は皆が起きている時と全く違った雰囲気である。
 賑やだったものが静寂と化し、カーテンの隙間から途切れ途切れに入ってくる月光がどことなく神秘的だった。
 そんな中一人、たたずむかのようにファルコンはいた。 皆を起こさぬようにか、暖房は付けずジャンパーを着ている。片手にはブランデーの入ったグラス、近くにはボトルがあった。
 メンバーの殆どが未成年の為、皆の前では飲酒は極力避けている。実際のところ、そんなに飲む方ではないが。
「…気になっている…か」
 フォックスの言葉がまだ余韻を残していた。
 改めて自分が本気でそういうことを考えたことがないのにファルコンは気がついた。
 もう長くいるのに、何故だろうと考えた。だが答えは簡単だった。
「…?」
 何か物音がしたので振り返った。微かに入り込んだ月光が、音をたてた人物を一瞬だけ照らし出した。
「サムス…?」
 気になったのか、ファルコンはボトルの蓋を閉め、彼女の後を追った。




 サムスが向かった先はテラスだった。
 テラスに出ると冷たい風が吹き付ける。しかしサムスは、あまり暖かい格好ではないのに平気そうだった。いや、寒さを感じられないぐらい悩んでいたのかもしれない。
「我侭…か」
 思わずサムスは溜息をついた。
(未だにみんなやこの環境に慣れてないのかもしれない…。カービィとかとは全く正反対…)
 サムスはふと空を見た。
 雲で隠れてよくは見えないが、微かな隙間から覗く星は一つではなく、多くの星が見えていた。
「…寒い」
 急に寒さを感じて、サムスは身を縮めた。そういえば厚着でないことに今気がついた。
 同時に何故か孤独感を感じた。
 この感情には慣れているはずなのに、今は悲しい。
 何故だろう、と疑問に思った。
「ショール一枚じゃ寒いんじゃないか?」
「!」
 突然、声を掛けられたのと同時に何かをかけられた。
 よく見るとかけられたものはジャンパーで、振り返ってみるとそこには見慣れた人物、ファルコンがいた。
 今まで、いるのに気づかなかったことにも驚いた。
「ありがとう…貴方の方こそ寒くならないのか?」
「私は平気だ」
 ファルコンは笑ってそう答えた。すると、サムスの隣にたって、空を見た。




 しばらく会話はなかった。
 ファルコンは空を見ていたりキョロキョロしてよそよそしく、サムスもうつむいて黙ったまま。
 ふと、ほのかに何か甘いような匂いがするのにサムスは気がついた。
 少し気になってちらりとファルコンの顔を見る。
「…ブランデー?」
「あ、ああ。少しだけ、な」
 突然話しかけられて、ファルコンは少し動揺した。そのファルコンの様子を見て、サムスは苦笑いする。
 少し気が楽になったのか、サムスは溜息のように息をついた。息が白く舞う。
「…ここ最近、元気ないんじゃないか?」
「えっ…?」
 あまりにも意外なことを言われ、サムスはファルコンの方へ振り向いた。
「あっ…」
 その時ファルコンもサムスの方を向いていた為、目が合ってしまった。思わずサムスは目を逸らす。
「…なんで…そう思う?」
「いや…いつもより暗い顔、してる」
 サムスには見えていなかったが、その時のファルコンの顔は少し赤なっていた。
「…考え事…してたからかも」
「考え事?」
 ファルコンがそう訊ねると、サムスは俯かせていた顔を上げた。
「自分のことって、案外人に言われないと分からないこともあると」
 軽く笑ってサムスは言った。
「私は知らず知らずみんなのこと避けていた」
「…何故?」
「理由は…人付き合いって面倒だからとか、色々思いつく。でも…」
「…」
「一番の理由は…もう、大切な人がいなくなるのが…失うのが嫌だから…かも」
 サムスは悲しい顔をして言った。今まで見たことがない、寂しげな雰囲気だった。
「人と付き合わなければ大切な人なんてできない。一緒にいても我侭とか自分の感情を見せなければ、相手になんとも思われない。だから避けたい。そう思ってた、けど…」

―それが我侭、なんだ―

「…サムス?」
 突然、サムスはまた黙り込んでしまった。
 よく見ると、下に雫のようなものが落ちた跡があった。
「や、だ…なんで、だろう…私…私…」
 大粒の涙がいくつも、サムスの頬を次々と流れていった。止めようにも止められない程に。
 すると、ファルコンはサムスのことをそっと抱きしめた。
「ファル…コン…?」
「泣きたい時は…泣いた方が気が楽になる、と思う」
 ファルコンは、なるべくサムスの顔を見ないようにして言った。
「どう、して…私は、貴方の前だと…こうなるのだろう…」
「さぁ、な…」
 サムスはファルコンの胸に顔をうずめて、泣いた。
 今まで泣けなかった分、泣くように。




「…落ち着いたか?」
 まだファルコンはサムスを抱きしめたままで、サムスも泣き止んではいたが顔をうずめたまま。
「少しだけ、聞いてもらいたいことがある…いいか?」
 ファルコンがそう訊ねると、サムスは肯いた。
「私は…時々思うんだ。自分は凄く我侭なのではなかと」
 真剣な声色。サムスは黙ったままそれを聞いていた。
「仕事柄のせいかもしれない。レーサーっていうのは常に一位を目指したり、自分の限界を試す…だから我侭なのは当たり前、と。それはこの世界に来てからも変わらなかった。自分の求める結果のために色んな我侭をしている、そんな気がする」
「…それは我侭なのか? 私は、そうは思わない…」
 ファルコンの言葉にサムスはそう言った。そう言われるときついな、とファルコンは苦笑した。
「そんな私だが…一つだけ、サムスに聞いて欲しい我侭がある」
「…何?」
 サムスは顔を上げ、ファルコンの顔を見た。また目が合ったが、今度は逸らさなかった。
 抱きしめる力が少し強くなった。サムスは心臓が跳ね上がりそうな感覚に襲われた。抱きしめられたことでではなく、ファルコンの表情を見て。
「私のことをどう思うと、どう接しようと、私は咎めたりはしない。ただ――

―サムスには幸せになってもらいたい―

「えっ?」
 あまりにも単純な言葉。しかし、突然過ぎたからか、一瞬サムスはその言葉を理解できなかった。
「それってどういう、意味で…?」
「色んな意味で、だ。できることなら私自身の手で幸せにしてやりたい。だが、私ではどう考えたって役不足だ。だから…その、なんだ…お前を元気付けられる言葉ぐらいは、と…」
 そう言い終わった時に、サムスが俯いて小刻みに震えた。
 予想もしなかった反応にファルコンは思わず焦った表情になる。
「サ、サムス?」
「だ、だって…そんな、貴方に似合わないこと…真顔で言われるとは、思って、なかったから、あはは!」
 普段は見せない―いや今まで見たことがない明るい笑顔で、笑い涙が出るぐらいサムスは笑っていた。
 正直、ファルコンは少し傷ついたが、ほっと胸をなでおろした。
「やっと…笑ってくれたな」
「今まで心から笑うことなんて忘れてた気がする」
 まだクスクス笑いながらサムスは応えた。
 するとファルコンは、今までより強く、けれど優しくサムスを抱き締めた。
 流石に今度は抵抗があるらしく、サムスは焦った様子で離れようともがく。
「ちょ、ちょっと…! ファル――」
「少しだけ…このままでいさせてくれないか?」
 普段冷静な彼からは思えない優しく暖かな雰囲気の声に、サムスはドキッとした。
 反射でが、いつの間にか彼女は彼の服を掴んでいた。顔が赤くなり、鼓動が早くなる。
「ホント、我侭だ…貴方も…私も」
 ファルコンに聞こえたかどうかは分からないが、サムスはそう囁いた。
 ふと、サムスの瞳に白くて小さなものが舞い降りてくるのが映った。
「雪…」
 彼女のその言葉に反応し、ファルコンは抱き締めていた腕の力を緩め、空を見上げた。
「綺麗…だな」
「ああ…」
 空からは、雪がしんしんと、柔らかく二人の上へと下りてきていた。




―その日は私が一番我侭をした日だった―
















Falcon side Samus side

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あとがき

ファルコンのセリフに悩みに悩みまして…。
ああ…ファルコンって実際こんなこというのかしら(滝汗
ついでにサムスってこんな笑い方するのかしら…ああ、不安(汗
ちなみに、サムスはファルコンの言葉をその通り、つまり元気付ける為としかとらえていません(ぉ
私のサムスはちゃんと「好きだ」と言わなきゃ分からないタイプなのです(^^;
サムス自身がファルコンのこと好きだって自覚しているかについては皆さんにお任せします(何

2004/12/17修正






おまけ(何


「あ!」
 室内へと戻ろうとした時、サムスが突如声を出した。
「確か、ブランデー飲んでたって言ったな?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
 サムスは少し悪戯そうな笑みを浮かべてファルコンの方に向く。
「飲み比べ、してみないか? たまにしかお酒飲めないんだ」
「い、いや…遠慮して――」
「あら?ファルコン、もうすぐクリスマスだから、私も我侭したっていいって言ってたんだろ?」
「だ、誰からそんなことを…!」
 フォックスが言ったのか?と焦りながらもぶつぶつとファルコンは呟いた。
「だったら私の我侭もきいてくれるだろ? 私は貴方の我侭をきいたんだ」
「うっ…」
 言い返すこともできず、ファルコンはその場でうなだれるように溜息をついた。


―少しの時間が楽しく感じられるのも貴方のおかげかも―




 翌日、ファルコンは二日酔いにやられて一日中寝てたとか。