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VAGRANCYより





I am selfish.
〜Samus side〜












―我侭なんて言ってはいけない、ずっとそう思っていた―





 外はもう、真冬の寒さ。夜は更に冷え込む。
 けれどもそれと対照的に屋敷の中は暖かかった。
 ポポとナナが窓から外の空を見上げていた。もう夕飯も食べ終えた後なので真っ暗だが、屋敷の明かりのおかげで少しは見えるらしい。
 するとポポが、何かに気がついた様に口を開けた。
「真夜中か明日の朝辺りには、雪が降るんじゃないかな?」
 流石は氷山登山家だと思った。雪が降るかの予測は見るだけでわかるらしい。
「雪って知ってるよ!小さくて、白くて、食べると味はしないけど冷たいんだよ!」
 雪、と聞いて、カービィが目は輝かせて言った。
 正直言って、雪を食べる子なんて彼ぐらいではないかと思った。
「絶対、食べる方が変だと思う」
「えぇ!? だって甘そうなイメージない?」
 フォックスの言葉にカービィは頬を膨らませていた。
 …なんだか、見ているだけで疲れてくる。
「…? どうしたんだ、サムス」
 私が立ち上がったのが不思議に思ったのか、近くにいた男…ファルコンが呼びかけてきた。
「…食器洗い。私の当番だから」
 それに、こういう雰囲気はやっぱり慣れない…。



 私が台所に行った時、ちょっとした先客がいた。
「あ、サムスさん!」
「ぷりん♪」
 ロイとプリンだった。
 確か二人は、夕食の後、皆から頼まれたものを買いに行くと言っていた。それから帰ってきたところだろう。
「…そっか、今日の食器洗いはサムスさんだったんだっけ。…プリン、それじゃ崩れるぞ」
「ぷりん?」
 相変わらず二人は微笑ましいと言うのか、そんな雰囲気がする。
 それを見る度、私の胸は何かが詰まったような感覚がする。どうしてだか、よくは分からないが。
 しばらく食器を洗っていると、冷蔵庫の中に詰め終わったのかロイはもう台所にはいなく、しかし何故かプリンはまだ残っていて、じっと私の方を見ていた。
「どうしたの?」
「…サムスって、恋、したことある?」
 唐突すぎる質問に、私は一瞬硬直した。けど、プリンは目を輝かせていた。
 正直言って、無い…に等しいと思う。
 私は、幼い時から独りが多かった。家族というものもあまり知らない。人と慣れ親しむこともあまり無い環境で育ってきた。
 だからこの暖かい環境に突然放り込まれて当然困った。ましてや、今目の前には恋という暖かな感情に憧れている少女がいるというのにも困った。
 確かに女性としては先輩かもしれない。だが、教えてやれるほどそういう経験がない。
 嘘をついてまで虚勢を張る理由もない。しかし何故私なのかと疑問に思った。
「…そういう経験はない」
「じゃあ、ロイが言ってたことは間違いなの?」
 ますます訳が分からなくなってきた。
 どうやら聞いた理由は私が考えていたものとは違うらしい。でも、何故そこにロイが出てくるのだろうか。
「さっきロイがね、『サムスさんはファルコンと仲がいいってみんな言ってる』って教えてくれたの。プリンね、それが“恋”なのかなって思ったの。でも違うんだよね。…変なこと聞いてごめんなさい」
「…」
 そう言うとプリンは台所から出て行った。
 何故、私は否定しなかったのだろう。いや、否定“できなかった”…?
 確かに、ファルコンとは仕事柄が同じ所為なのか話が合うことがある。
 けれど、それは仲がいいことなのか? 何か特別な感情があることなのか?
 …違うとは言い切れないのは何故?
 …それとも違うといいたくない?
《…自問自答しているところ悪いが、袖が濡れている》
「え…?」
 声に気づき、ふと目を下にやると、上まで捲っていたはずの袖が下がっていて水に浸かっていた。
「…ご忠告ありがとう、ミュウツー」
 厄介な相手に聞かれてしまった。
 彼なら皆に言いふらすような行為はしないだろうが、知られたくなかった部分を知られてしまった。
《…お前ほどの者でも悩むことぐらいあるのだな》
「それはどういう意味だ? 私も悩むことはある」
 訊いてくることだけは勘弁して欲しかった。
《強い想いや迷いほど、よく耳に入る…全く、厄介な能力だ》
「…何か用か?」
 ミュウツーが人と話をするのにこんなに長くいることは珍しい。だから何かあると、私は思った。
《用というものもことでもない…『サムスが我侭を言っているところを見たことがない。それではストレスを溜めてるのではないだろうか』などと心配していた奴がいてな》
「我侭? そんなことするわけがない」
 そう、我侭なんて…言ってはいけない。
《…そういうお前が一番我侭なのではないか?》
 そのミュウツーの一言が、私の胸に釘を刺すように、痛く感じた。
《私が言えた言葉ではないが、時には人に頼り、甘えた方がいい。独りで過ごすことは辛いものがある…どこかのお節介が言っていたな》
 そう言うとミュウツーは何事も無かったかのように去って行った。
 …お節介は誰なんだか。
 けれど、彼の言う通りかもしれない。
 独りでいた者こそ、人の暖かみを知る必要があるのかもしれない。けれど、それは簡単なことではない。
 …やはり分からなくなってくる。
「…早く終わらせないと」
 私は、今起こった出来事を簡潔に割り切り、残った食器を洗い始めた。夜中までかかるんじゃないか、この量。
 そういえばフォックスも今日の食器洗い係だというのをすっかり忘れていた。本人も忘れているのかもしれないが。



 数分後、慌てた様子でフォックスは台所に来た。必死に謝った辺りが彼らしい。
 遅れた原因は大体予想はつく。お子様たちの遊び相手になっていたのだろう。
 しばらくは会話が無く、ただ水の音と食器が重なる音しか聞こえなかった。
「…なぁ、サムス。何か欲しいものとかあるか?」
「…はぁ?」
 フォックスの突然の質問に拍子抜けした返事を返してしまった。
 言った本人の方も、とんでもないことを言ってしまったかのように慌てていた。
「い、いや…ちょっとした思い付きだから…」
 そう言うとフォックスは顔を真っ赤にしながら最後の皿を洗い終えた。
「…お前といい、ミュウツーといい…本当、雪が降ってもいいようなこと言う」
「それは…サムスが無理しすぎだからと思うんだ、オレは」
 顔を赤らめたままフォックスは言った。
「無理しすぎ? 別に私は…」
「オレの思い違いかもしれない。でも、サムスはオレと同じように最初からいるのに、我侭を言ってるところって見たことないな。自分の言いたいこと言わないのって無理してる、そうオレは思う。…少し図々しいかもしれないけど」
 少し間をおいてフォックスはまた話す。
「もうすぐクリスマスだし、それぐらいのことは許される。我侭だってめいいっぱいしたって罰は当たらない…ってオレの言葉じゃないんだけどさ…」
 フォックスは恥ずかしいことを言ったというように、更に顔を赤くしてしゃがみ込んでしまった。
 …確かに、よく言えたものだと思う。
「…ありがとう」
「…あ、いや…その、オレは――」
「後は任せてもいいか? 少し気分転換がしたい。…みんなは早く休むと、言っておいて。それと…」
 台所から出る前に振り返った。
「そんなこと言うのは私にはアイツぐらいしか検討つかないけど…。誰が言ったんだ? その言葉」
「…ファルコンだ」
「やっぱり」
 少し苦笑いして溜息をついた。
 フォックスはそのまま作業を続けていたので何も言わず自分の部屋へ戻った。


「何バカやってるんだよ、オレ…」
 そう耳を垂らしてフォックスがつぶやいた言葉をサムスは聞かなかった。











Falcon side Midnight

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あとがき
クリスマスネタ入りです。
見ていただいて分かると思いますが、フォックス→サムスでもあります(苦笑
最後の「バカ」は、わざわざライバル(ファルコン)に優勢なこと言っちゃったからです。
真面目さんはこれだから損するんですねー(ぉ
ファルコン側のも時間軸はほぼ同じですが、全く雰囲気が違う感じ(^^;

2004/12/17修正