うららかな昼下がり。
こういう日は大概の男性メンバー(一部を除く)は外に出ていて、帰ってくるのは夕方頃。
そこで談話室では女性メンバー特有の座談会が行われる。
「それで、その後ロイとはどんな感じですの?」
「どんな感じって言われてもぉ……」
「プリンってば、顔が真っ赤」
「それなら聞くまでもないみたいね!」
いわゆる恋の話である。
普段は乱闘などあまり女性としては興味のない話題ばかりなので、こういう機会には大いに盛り上がる――ただし一名を除いて。
「でも、ロイって奥手そうなイメージありましたのに……」
「やっぱり、ここに来たからじゃないかしら?」
「ねえねえ。どこまで進んだの?」
「ど、どこまでって……!?」
何やらプリンとロイの関係について盛り上がるみんなを横目に、サムスは一人紅茶に口につける。
職業柄のせいもあり、全くではないのだが色恋沙汰にはあまり気が乗らない。
それに容姿や態度から発せられるサムスの雰囲気だけで経験豊富だと見られがちだが、実際に恋愛をしたことなんて一度もないので話すこともない。
けれども話を聞いてる分にはそれなりに面白いので、こうやって一緒にいるのである。
「と、ところでサムスって初恋はどんな感じだったの?」
「えっ」
話をそらすためか突如プリンに話を振られ、サムスは一瞬ティーカップを落としそうになった。
「そういえば、興味ありますわ」
「私も。サムスさんって理想高そうですし」
「今は意中の相手がいなくても、初恋ぐらいは経験あるよね?」
一気に興味の対象と切り替わってしまった。
こうなると男性の誰かが談話室に入ってこない限り逃げ場はない。が、誰か来る気配もなく、サムスは思わず困惑した顔になった。
「一応、初恋……みたいなものなら」
「みたいってどういうことですの?」
「初恋って言えるか分からないから」
「でも気になる〜!」
「教えて下さいませんか?」
一層期待の視線を注がれ、サムスは溜息をついた。
「何年も前の話になるんだけど――」
当時、サムスはバウンティーハンターとして依頼を受けるようになったばかりだった。
その日受けた依頼の内容は、規模は本当に小さいがスペースパイレーツがアジトにしている廃研究所の破壊だった。
(少し、あまくみすぎてた……)
小規模とはいえ、宇宙を脅かすスペースパイレーツのアジト。あと一歩というところで、最後の力を振り絞った奴らは証拠隠蔽のため自ら仕掛けたと思われる研究所内の爆弾を爆発させ、サムスに深手を負わせた。
すぐに研究所内は火の海と化し、サムスの脱出の行く手を阻んだ。
(こんなところで……死ぬわけにはいかないのよ……!)
傷のせいで思うように動かない体を必死で引きずり、まだ火の気が回っていなかったルートを進んだ。
研究所内のパイレーツはサムスが倒したので全部だったのが不幸中の幸いで、なんとか最初の階へと戻ることができた。
その時には既にそこまで炎が迫っていたが、これなら出られる、と思った矢先だった。
「っ――!!」
燃えて脆くなった柱がサムスの真上へ勢いをつけて落ちてきた。
傷の痛みで避けきれなかったサムスはそのまま柱に押しつぶされた。
スーツのおかげでなんとか死には至らなかったものも、サムスには柱をどけて這い上がる力が残されてなかった。
周りは炎で囲まれ、空気が薄くなってきた。スーツのエネルギー残量も底をついた。
(まだ……死ねないのに……)
意識が朦朧としてきた最中、火の向こうから何かがこっちへ向かってくる。サムスは一瞬幻を見ているのかと思った。
異変に気づいて駆けつけた銀河警察か、あるいはスペースパイレーツか。今のサムスには判断できなかった。
(もう……だ、め……)
僅かに意識は残されていたものも、サムスは目を閉じた。
「――い、しっかり――」
どうやらさっきの人影は幻ではなかった。そして幸運にもそれはパイレーツではないようで。
「――ちら、アンディ――に要救助者が――」
微かに聞こえる男の声。顔を確認しようとサムスは目を開けたが力が足りず、ついに意識が途切れた。
「その人がこなかったら――」
「そう、死んでた」
周りの空気が急に重たくなる。
無理もない。女性だけの会話にこんな九死に一生な話をすれば。
「その後、助けてくれた人物が銀河警察の人だって分かった。どうしてもお礼が言いたくてね、その人を探してみた」
「アンディって名前だけじゃ探すのは大変だったでしょう?」
「一週間ぐらいかかった。何せ銀河警察だ、個人情報なんてハッキングでもしないかぎりなかなか検索できない」
特に表情がなかったサムスの顔が不意にほころんだ。
「今思うと……勝手にアンディって人の顔想像していたんだ。きっと二枚目で自分の好みなんじゃないかって」
「プリン、分かる。そういう気持ち」
「あ、だから初恋“みたい”なのね」
そういうこと、とサムスはナナに笑みを見せた。
「で、そのアンディさんは見つかったんですの?」
「……一応、ね」
「一応ってどうしてですの?」
ピーチにそう訊ねられ、サムスはふぅと息を吐く。そこまで聞かれたくなかったとでも言いたげに。
「やっとその人住んでいる所を見つけた。会いに行ったら……彼は事故で亡くなってた」
また周りの空気が重くなった。思わずピーチは済まなそうに顔を俯かせた。
「びっくりよ。崩壊寸前の場所で私を助けた人物が数日後に事故で亡くなったなんて。もしかして、自分を助けた分が……とか思ったりした。けど、彼の妹さんにね、そんなこと言わないで下さいって言われた」
それ以来、少しは自分の命を大事にしようと思った、とサムスは小声で言った。
「ねえ、サムス」
夕方、メンバーが戻ってくる頃にプリンはサムスに近寄ってきた。
「もし今、そのアンディさんに会えたら、なんて言いたい?」
「……そうね」
サムスはふざけるかのような口調で言った。
「赤の他人の命大事にするぐらいなら、自分の命を大事にしなさいバカ。とでも」
「サムス、きびしー!」
クスクス笑いながらプリンは玄関へと走っていった。
「バカ、か」
「何盗み聞きしてるんだ。しかもさっきの話も聞いてただろ」
入れ替わるように近づいてきたファルコンをサムスは睨んだ。
ファルコンはまあまあ、と思わずなだめるような声を出す。
「もし俺がそいつだったら、助けた女にバカなんて言われたら傷つくぞ?」
「あくまで貴方だったらでしょ。貴方は彼じゃない」
素っ気無く言うと、サムスは自室へと戻って行った。
「まあ……今はファルコンだしな」
怒っているサムスの後姿を見て、ファルコンは思わず苦笑した。
あとがき
分かる人は分かるネタです(笑
実際にその時間軸で合ってたら、きっとファルコンが有名になるころには…丁度サムスは有名なバウンティー・ハンターになってるでしょうな。
本当は違うだろうけど。
きっとサムスはアンディさんの顔は見てません。じゃなきゃバレますし(笑
2005/05/10