雪桜
桜の見頃が過ぎ、春という時期にしては肌寒い日だ。
ここ数日の雨で残っていた桜の花は散ってしまっただろう。
ふと六は空を見上げた。
まだ曇り空で、白とも灰色とも言いがたい色をしている。けれども嫌な色ではない。
散歩にでも出てみようか。
そう思い立って、朝から布団に包まったままの居候のところへと足を向ける。
「おい、ジャック」
声をかけると布団はもぞっと動いた。が、中にいるジャックが出てくる様子はない。
夜型の生活習慣が身についているからかそれとも実は低血圧なのか、ジャックはなかなか起きない。
苦笑いしつつも六が布団ごと揺するとジャックは布団から顔を出した。
「……おはよう」
「馬鹿。もう昼だぞ?」
「……そうなのか?」
まだまだ眠気が残っているらしく、今にもジャックの目は閉じてしまいそうだ。
「いい加減、目覚ませ」
六はジャックの額をコツンと一回小突く。
それでやっと目が冴えたらしく、小突かれたところをさすりながらジャックは起き上がった。
「これから散歩に行くが、一緒に行くか?」
ニッと六が笑うとジャックはゆっくり頷いた。
散歩先は割りと最近にできた森林公園。
桜が満開だった時はかなり騒がしかったものも、今は殆ど人がない。こうなると少し寂しいものだ。
だが今はゆっくり散歩したい六にとっては好都合だろう。
六が著明人なだけに、人が多いところに出て騒がれてしまうと全く身動きが取れなくなってしまうから。
現に皆で花見に行った時の帰りはすごい人だかり――Deuilの三人もいたせいで尚のこと――になって危うく惨事になるかと思った。
「もう殆ど散ってるな……桜」
六は花があったところに緑の新芽が生える桜の木を見上げた。
釣られてか、ジャックも同じ木を見た。
「この間の花見っていうの、楽しかった。……もう少し桜、見てたかったけど」
「花より団子ならぬ団子より花か」
「なんだそれ」
気にするな、と六はジャックの頭を撫でた。
風がふわりと通り抜ける。まだ残っていた桜の花がひらりと舞った。
それをジャックは無意識に目で追う。桜はゆらゆらと羽根のように地面へと着く。
「どうした?」
突然ジャックは立ち止まったので六は振り返った。
ジャックはじっと桜の花びらが積もった地面を見ていた。
踏み荒らされていないその場所は花びらで一面覆われていて、真っ白に近い色になっていた。
「…なぁ、六」
「ん?」
「なんか……雪が積もったみたいだ」
ふと六はその辺りを見回した。
土が見えなくなるまで積もった花びら。
確かに雪が積もったようにも見えなくない。それにこの肌寒い空気で本当に雪だと信じ込んでしまいそうだった。
「……お前もうまいこと言うな」
そう言うとジャックは照れたのか微かに方を赤らめ、どことなく桜色に見えた。
何故かそのあどけなさにふとした安堵感を覚えた。
「今度は他の奴等と行く前に二人で見に行くか、桜」
「……ああ」
微かに微笑んだジャックを見て、こちらの桜はまだまだつぼみかなと六は思った。
歩き始めると、また風が通り抜けた。
先程よりも少し暖かな風。桜がまた、ゆらゆらと舞った。
気付けば雲が減って太陽が顔を見せていた。
まさに春らしい日だと心の中で感じた。
「……そういえば、昼飯まだだ」
「やっぱりお前も花より団子か」
「だからどういう意味なんだ?」
「後で教えてやるよ」
あとがき
また短くてすみません…orz
ふと近くの公園でそんな風景を見たので、そのままSSにしてみたり。
花見話も書いてみたかったなぁと(笑)
2005/04/29