真っ白な空間。そこにある扉。
それが私の全て。
時間と時間の狭間。
ここでは時間が流れているのか止まっているかは分からない。
そんなこの場所が私が住んでいる場所であり、生まれた場所。
数字と呼ばれる形をした時の砂を眺め、数える。
それが私の日課といえば日課だった。
ときには扉の向こうの時間の流れに身を寄せて、世界に流れる時の記憶を眺めている時もある。
けれども、全てが明るいものではなく、むしろ暗いものばかりがあつまったそこにいるのは嫌だった。
だから、こうやって時の砂を数える。
ここには私一人しかないから。
時々ここに現れる自分以外の者は、歪みに飲まれた時の迷子か、神と呼ばれる存在だけ。
けれども、その日は違った。
「誰?」
振り返ったそこにいたのは、今まで見たことのないような格好をした人。
「ここまで来るつもりはなかったんだが……」
「あなたは……誰?」
「迷子、とでも言っておこうかな」
「嘘。迷子は扉からしかなこないもの。あなたは向こう側からきた」
向こう側――“神サマ”が統べている世界とは異なる世界。
前に唐突に現れたため防げなかったが、向こう側からきた少年を通してしまったことがあった。
その時は“神サマ”がなんとかしたと聞いたけれど、この人は違う。
「厳しいな。こちらのセキュリティは生きたものが管理しているから入るのは容易じゃない……“彼”が言った通りだ」
違うのは“空気”。
時間に縛られた者ではない。むしろ時間を司る者。そんな“空気”がこの人からはした。
「あなたは……あらがう者なのね」
「やっぱり分かるか、同じ時を管理する力を持った者同士だと」
「何故、あらがうの?」
「そう言う君は何故抗わない? 一定の流れしか持たないこの場所にいることを」
カバーをしていて眼は見えなかったけど、確かにその人が私を冷たい眼差しを向けているのが分かった。
今まで投げかけられたことのない質問に困った。
けど、答えはすぐに出てきた。
「時間を見るのが好きだから……時を数えるのが好きなの」
「私とは、逆だな。……まあ、世界の違いってやつかな」
ふっとその人は笑った。多分私にではなく、自分自身に。
「そろそろお暇させてもらうよ。“神サマ”に見つかったらマズイからね」
その人は私に背を向けて、向こう側へと帰ろうとする。
「また来るつもりなの?」
「さぁ……それは“彼”に聞かないとね」
そう言ってその人は向こう側へと帰っていった。
「よう、オフィーリア」
「“神サマ”……お久しぶりって言えばいいかしら」
「まあ、そうなるかもな」
“神サマ”が来るなんて珍しい、そう思った。
何故なら、いつもは“猫さん”が訪ねてくるから。
「元気にしてっか?」
「……向こう側からあらがう者が迷い込んできました」
「!!?」
「でも、すぐに帰っていってしまいました」
予想はついていたけど、“神サマ”はとても驚いた。
来たことに気づいてなかったからか、それともあらがう者だったからかは分からないけど。
「……次にそいつがきたら、すぐに呼べ」
「悪い人なんですね」
「向こう側で指名手配中ってやつだよ」
“神サマ”は苦笑いをして、私の頭を撫でた。
「……お前は不満はないのか?」
「不変だから、ですか?」
「ああ」
「私は、この世界が好きだから」
そう答えると“神サマ”は嬉しそうに笑った。
「あ、そうそう。本当はこれを渡そうと思ってな」