「お前は一体何なんだ?」
銀が訊ねれば、鐡は言う。
「何だと思う? 当ててみな」
面白そうに銀を見る鐡。
しかし、銀には答えは一つしか浮かばない。
「兵器として量産する為に試作段階として作られたクローン、か?」
「当たってるっつちゃぁ当たってるんだが……そうじゃなくてな」
鐡は銀から少し離れ、くるりと半回転し、組み合うような位置に立った。
「俺がお前で、お前が俺で。それがクローン」
「じゃあお前は違うのか?」
「そうだよ、兄弟」
銀はその言葉に聞き覚えがあった。
言葉だけじゃない。声もそうだ。
そっと目を閉じて、深くて暗い自分の“ブランク”を探った。
「……お前は俺のそばにいた?」
「ざっと十年は。その間の記憶は俺もお前も同じ、共有の記憶。
俺がお前から“離れた”時に俺が一部持ってかせてもらったから、“ブランク”になってるだろうけど」
コイツのことを自分は知らないが、自分のことをコイツは知っている。
銀にもそれは理解できる。けれど何故そうなのか。
「お前は一体……何なんだ?」
「俺は俺で、お前はお前だよ、兄弟」
ニッと鐡は口元を緩めた。
鏡で見ている自分ではなく、個々の存在だと。
「俺に哲学でも教えるつもりなのか?」
「じゃあ、理論的――でもないが、詳しく説明してやるよ」
まぁ座れ、と鐡が促すと、銀はその場に座った。鐡もその隣に座る。
「確かに俺はクローン技術でお前の一部から作り出された。でもその一部はお前ではなく俺だったんだ」
「よく分からない」
だろうな、と鐡は呟く。
「一卵性双生児って分かるか?」
「一つの受精卵がなんらかの原因により二つに別れ、結果同遺伝子配列を持つ個体が二つ生まれるやつ」
「俺とお前は実はそうだったんだよ」
銀は思わず怪訝な表情を浮かべた。
もし自分とコイツがそれならば、髪の色も瞳の色も同じなはず。
けれども髪も瞳の色も全然違う。同一しているとしたら根源的な姿ぐらい。
「けどな、俺とお前が母親ん中いる時になんか不具合があったらしくて」
「待て。なんでそんなこと分かるんだ」
「実は俺、胎児の時から記憶があるんだよ」
ありえない、と言ったところでどうにかなるわけもなく。
銀は黙って鐡の話を聞くことにした。
「よく分かんないが脳か何か俺である部分がお前の中もぐりこんだまま生まれたってわけ。一種の奇形ってやつ」
「想像すると気持ち悪い……まだその一部って残ってるのか?」
「心配ない。だってその一部を取り出して作られたのが俺だから」
ケラケラと笑って言う鐡。
やっぱりコイツはどっかおかしいと思わざるを得ない。
「だって研究所の奴らだって俺が脱走するまでお前のクローンだと思ってたし。奇形だからお前とは髪や目の色が違うんだと思うけど、アイツらは偶然そうなったっていうので片付けたんだろうな、遺伝子配列は変わらないから」
「……で、結局お前は何なんだ」
「お前のクローンであり別の人間であり、兄であり弟である存在」
「……複雑」
「いいじゃん、簡単に兄弟で。俺は今までそう思ってきたから」
本当に兄弟なのかと疑いたくなる。
それほどまでに二人の性格は違うから。
「なぁ、ジャック」
鐡は銀の名を呼んだ。
そう。銀の名を初めて呼んだのが鐡だ。
研究所にいた時――“ブランク”の後から年で言うなら十歳になるまで、自分に語りかけてきた声だ。
確証はない。けれど、鐡の言っていることと合わせればつじつまが合う。
「後にも先にもお前が幸せなら俺はそれでいい。それだけのために俺は“生きる”って選択肢を取った」
「……」
「だから、俺がお前のためって思ったら何でもする」
何せ、無二の兄弟だから。
「まぁ、あくまでそれが最優先事項ってことだ」
「……都合のいい奴」
それでも許せるのは、やっぱり兄弟だからなんだろうな。
銀(シロガネ)→ジャック 鐡(クロガネ)→2Pジャック
貴様はピノコか2Pジャック。ぶっちゃけありえないですね。でもフィクションだからいいのさ。