あんたがいるこの世界で












 不思議で、嫌な夢を見た

 全く知らない場所で

 あんたが俺の前からいなくなる夢

 しかもあいつの手によって


 まさに悪夢だった


 でも、夢にしてはやけにリアルだった





 ホロウバスティオン。今回の出来事の根源、アンセムが統治していた世界。そして彼が地下で“ハートレス”の研究をしていた場所。
 9年間、ハートレスの巣窟となっていたこの世界は、一人の鍵を持つ少年と二人の王の使いにより、平和がもたらされた。それはどの世界にもいえることだ。
 事が起こった9年前のあの日、この世界に住んでいた住人の殆どがハートレスによって闇へと消えていった。今やこの世界の住人は生き残った、たった数人の人間だけが今のこの世界の唯一の住人。
 その住人の一人――クラウドは、虚空を見つめるかのように淡い色の空の先を見つめていた。
「どうしたの、クラウド?」
 後ろから彼女――エアリスがひょこっと姿を見せた。そしてクラウドの前まで来ると、腰を低くして彼の顔を下から覗き込む。
「なんか、元気ないよ?」
 表情からして普段とあまり変わりないように見えるクラウドだが、エアリスからしてみれば元気がないに入るのだろう。
「別にあんたが気にするようなことじゃない」
「でも、気になるな〜? 何かあるなら、なおさら」
 とどめと言わんばかりに、わたしじゃダメなの?、と首を傾げれば、
「……聞いても面白くないと思うが……」
 クラウドの堅い口もあっさりと開いてしまう。それがエアリスの得意技だ。


「嫌な夢を見たんだ」
「嫌な夢?」
「……ああ」
 クラウドはちらりとエアリスの顔を見る。その行動にエアリスは疑問の表情を浮かべる。
「またハートレスが襲ってくる夢とか?」
 そう訊ねてみるがクラウドは黙ったままだった。
「……ねぇ」
「エアリスが……いなくなる夢」
「えっ?」
 思わずエアリスは目を丸くした。
 それを見てクラウドは気まずそうに俯いた。
「だから言っただろ。聞いても面白くないって」
「……どんな夢だったの? 詳しく、知りたいな」
 エアリスは顔を近づけた。クラウドの表情がどこか暗い。
「……いいのか?」
「どうぞ、おかまいなく。クラウドが嫌じゃなければ」
 微笑んで言うエアリスを見て、クラウドは一つ溜息をつくと、話し始めた。

 全く知らない場所 けれどなんだか見たことがあるかもしれない神秘的な祭壇

 何かに祈りを捧げるエアリス なぜか片手に剣を持つ自分

 嫌なぐらいの静けさ 自分に気付いて微笑みかけるエアリス

 そして彼女の躰から突如突き出る刀

「――……」
 やはり、エアリスにも返す言葉がなかった。あまりにも残酷でリアルすぎる夢だから。
「なんでいつもあいつが出てくるんだっ……!」
 ギリッとクラウドの拳に力が入る。
「もう、振り払ったはずなのに……! 振り払ったんだ! 悪夢も、闇も!」
「クラウド……」
 こんなに怒りに満ちたクラウドは初めてだった。
 いつもなら冷静でいたり、興味ないねと流したりしてと平然としているのに。こんなにも感情を露にするなんて。

「ねぇ……その夢のクラウド、わたしが死んで、泣いてた?」

 まるでなだめるかのように、穏やかにエアリスは問いかけた。
 その言葉で、クラウドは怒りから我に返った。
「……分から、ない。……だた何かを叫んでいた気がする……」
「そっか〜。でも、悲しんでくれてたんだね」
 わたしってしあわせものだね、とエアリスは笑いかける。
 例え夢とはいえなんでそんな夢を、とクラウドは悩んだ。
「ねぇ、クラウド」
「……ん?」

――もし、わたしが突然いなくなったら、
   その夢のクラウドみたいに、わたしのために悲しんでくれる?

「なっ!?」
「なんでそんなこと言うんだ、とか言わないで、答えて欲しいな」
 真剣そうな顔をして訊ねられたからか、クラウドはしばらく沈黙した。
「悲しまない、わけないだろう」
「ホント?」
「嘘ついてどうする」
「ふふふ」
 花のような無邪気な笑顔を振りまいて、エアリスはクラウドの腕にしがみ付く。
 そして、そっとつぶやく。
「もしかしたら、わたし達の前世の夢かも」
「はぁ?」
 エアリスのあまりにも思いつかないような言葉に、間の抜けた声が出た。
「前世でわたしが死んじゃって、クラウドがすごく悲しんだものだから、神さまがこの世界では、悲しまないようにって」
「そういうのは興味ないな」
「もう! 少しぐらいはいいじゃない。そういうこと、考えたって」
 子供っぽく頬を少し膨らまして、クラウドを見る。
 するとクラウドはまた一つ、溜息。
「……じゃあ付き合ってやるよ」
「え?」
 次の瞬間、エアリスの身体はぐいっと抱き寄せられ、いつもは大剣を振りかざしているその逞しい腕に包まれていた。

「絶対、いなくなるなよ」

「うん…どこにも行かないから。クラウドも、もう、離れちゃいやだよ?」

「ああ、約束する」








 

≪close≫







 あとがき
クラエアです。KH(FM?)なんだけど、FF7ネタも混ぜてv
とにかくこのカップリングは私の中で一番好きなので、楽しく書かせていただきましたw

2005/07/30 加筆・修正