アイすること












 その日はたまたま雨でした――




 いつも賑やかなスマデラハウス。
 だが、稀にみる雨の所為で、どこかじめじめした雰囲気になっていた。
「雨ってつまんなーい!」
「つまんな〜い!」
 ピカチュウとピチューが、ごろごろと転がりながら言った。
 まだまだ遊び盛りの子供メンバーにとっては、外で遊べない日ほどつまらないものはないだろう。
「ねぇ、かくれんぼしない?」
『え?』
 突然のネスの意見に子供メンバーは注目する。
「範囲は、この屋敷内。外は絶対ダメ」
「このお屋敷広いしな。まあ、行ってない部屋も探検がてらやるっていうのもいいんじゃないか♪」
 子供リンクも張り切った様子でそう言った。
「カービィちゃんもやる?」
「ぽよ?」
 突然、お菓子を食べている最中にカービィはプリンに話しかけられた。





 ミュウツーにとっても雨の日は嫌いな日だ。
 なぜならば、普段はスマブラやらやって屋敷に一日中いない時が多いメンバーが、一日中いるからだ。
 いくら抑制できるとはいえ、心の中を読んでしまう彼の能力にしてみれば、人が多い所にいるというのは厄介なことである。
《…》
 一つのものに精神を集中させていれば、ノイズ音のようには聞こえないのだが、今の彼にそんなものを求めても早々には出てこない。
 一瞬、寝てしまおうかとも考え、ベットの上に座ったが、雨は大降りな為、逆に疲れそうだったのでやめた。
 どうしようものかと考えようとしたその時だった。

パタンっ

 自分の部屋の扉が、軽くだが開け閉めされた。
 誰が入ってきたのだろうか、いや、考える必要はなかった。
 何故ならば、彼の部屋に何も言わずに入ってくるのは一人だけだから。
《今日は何の用だ、カービィ》
「てへへ♪」
 笑って、そしてそのままカービィはミュウツーの隣に座る。
《…甘い匂いがする…》
「うん?さっきおかし食べてたからかな♪」
《…で、何の用だ?》
 何も言わず引っ付いてきたカービィを見下ろして訊ねる。
 少年のように元気に遊びまわるこの少女は、ミュウツーもてを焼くこともあった。この間も近くの森で迷子になり、メンバー全員で捜すことになった。
 だが、その元気さ、明るさでなのか、皆が近寄りがたいと思っているミュウツーと、最も一緒にいることが多い。慕っているのかどうかは別として。
 カービィは少しミュウツーに寄りかかるような体制になってから、上目遣いでミュウツーの顔を見て言う。
「あのね…今かくれんぼ中なの」
《だから隠せと?》
「ちがう〜。…あのね…さっきおかし食べちゃったから眠くなっちゃって、でも誘われて断れなかったの」
 この瞬間、ミュウツーは嫌な予感がした。だが、今の体制では、カービィを無理やり引き剥がさない限り、逃げられない。勿論、引き剥がす意思もない。
「ボクの部屋じゃ…すぐ見つかって〜、鬼になっちゃうからぁ……ここで寝かせて…?」
 そう言って首をかしげる。既に眼がとろんとし始めていて今にも寝てしまいそうだ。
《…》
 ミュウツーは何も言えなかった。
 さっきとは全く逆だった。カービィとの距離が全くないこと、二人っきりなこと、自分は今どう思っているか…全部考えているうちに、耳障りな“声”は聞こえなくなっていた。
 突然、肩に重みがかかった。
 ふと下を見ると、カービィが小さな寝息とたて、ミュウツーの肩に寄りかかって寝ていた。
《…》
 こうなると、もうカービィが起きるまでこのままである。
 彼はこういう状況に慣れていないのか、この後どうするべきか、考え付かなかった。起こせばよいのだが、その考えは今の彼にはなかった。
「…みゅうつぅ…」
《…!》
 寝言だった。だが、自分の名前を呼ばれたことでミュウツーは少し動揺した。
 少なくとも、一番一緒にいる異性相手に何も感情を抱かないほど、ミュウツーは幼くはない。
《あ…!》
 寝てしまった所為で支える力がなくなったカービィの体は、滑るようにミュウツーの膝にうまく横たわった。いわゆる膝枕状態。
 ミュウツーはどうしたらいいものかと、また慌て始めた。そんなことはよそに、カービィは幸せそうな顔で眠っている。
 しばらく、ミュウツーはそのままカービィの寝顔を見ていた。いや、見惚れていたといっても過言ではなかった。
 今や自覚し始めてしまったその気持ちは、いつ他のメンバーに知られてもおかしくはなった。
 何故なら、カービィと一緒にいることが多いから。
《…のん気なものだな…》
 ミュウツーは、そっとカービィの髪の触れた。まるで、壊れそうなものを扱うかのように優しく。
 その触り心地のよいピンクの髪は、どこにいても目立つ。プリンも同じような色をしているが、カービィは髪が長い為、余計に目立つのだ。
 容姿もそうなのだが、そのやや天然な性格も他の女性メンバーより、可愛げがある。憎めないというのもある。勿論、その為にライバルもいることは承知していた。
 だが、これといってライバル心はなかった。
 理由は、彼が不器用で人付き合いも悪いということ。それもあるのだが、他のメンバーにない自分の大きな力で壊してしまうのではないかという恐れがある。
(…この間柄が壊されるのが嫌なのかもしれないな…独りという環境に慣れていた所為か…)
「ひとりじゃ…ないよ…」
 ミュウツーはまた驚いた。またしても寝言だったのだが、タイミングがよすぎた。
「みゅうつぅも…みんなも…たいせつ…」
 また、距離が縮まった。今度はしがみ付いて離れようとしない。
《…遠くで見守ってられるだけで十分なのにな…》
 ミュウツーは少しだけ微笑んでカービィを見ていた。
 カービィは、やはり何事もないようにスースー寝ていた。
《誰かを愛することが、これほどまでに難しいとはな…》





 約1時間後、ネスがカービィを見つける為に、部屋に入ってくるまでその状態は続いた。
 雨の日も悪くはない、そうミュウツーは思った。









END


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あとがき
レモンさんへ
かなり前にリクエストして頂いたのに短い上に遅くなってすみません(汗

ミュウツー×カービィ(擬人化)ということで書かせていただきました。
カービィは女の子という設定です。
…甘いです(何
取り乱してるツー殿下…こういうの好きですv(ぉ