あのひとにおてがみを










 3月14日のホワイトデーも過ぎて、やっと騒ぎが収まったと思った。
 だが数日後、その事件は起きた。




 その日、ピチューはたまたま中庭でお昼寝をしていた。
 日差しはとても暖かく、お昼寝には絶好の日だった。
「ねぇ! お願い! ボク、なんでもするから!!」
 突然聞こえた大声。耳のいいピチューはむくりと起きて声のした方に行ってみた。
「そうは言われてもな…。次元の歪みを強制に、しかも指定した場所と繋げるように作ると何らかの悪影響が出るから…」
「おねが〜い!! 手紙だけ、手紙だけだから!」
 そこにいたのは、必死に何かを頼んでいるカービィと、それを聞いてかなり困った顔をしているマスターハンド。
(なんでカービィとマスター? カービィとネシュやフォックスお兄ちゃんだったり、マスターとクレイジーならともかく…)
 草の茂みから見ていたピチューは首をかしげた。
「…分かった。その日までに手紙を書き上げて、昨日お前がサンドバックくんに言った条件とやらこなせたら、有無を言わずお前の好きなようにしてやる。…それでいいな?」
「うん! ありがと、マスター!」
 そう言うとカービィは猛スピードで屋敷へ戻っていった。
 何かある、そう思ったピチューもマスターにばれないようにその場を抜け出し、屋敷へ戻った。




「え? カービィの様子が変?」
 少し驚いた声でピカチュウが言った。
 ピチューは何回も肯く。
「そういえば…昨日、サンドバックくんとカービィが話してるところを見たよ。トーナメントがどうのって、カービィが必死になって何か頼んでた」
 ロイがそう言うと、今度はゼルダが何か思い出したような顔をした。
「この間、手紙の書き方を教えて欲しいって、私の所にカービィが来ましたけど…それと関係あるんでしょうか…?」
「そういえばカービィ、手紙がどうのって言ってた」
「…カービィが手紙を書くなんて…どういう風の吹き回しだ?」
 フォックスがそう言って考え込むと、その場にいた全員が考え込んだ。考えても答えは出なさそうだが。
「本人に聞いてみるとか?」
 リンクがそう提案するが、何やらクッパが邪悪な(悪戯って言った方がいい)笑顔を見せる。
「そんなのでは面白みが欠ける。こういうのは手紙の内容を見てしまうに限る!」
「うわっ。さすが大魔王」
 子供リンクがそう言うとクッパは豪快に笑った。
「確かに気になるな…」
「に、兄さんまで…」
 もう、手紙を書く理由よりも内容の方に話題がずれていた。
 友達に元気でやってるとでも送るのか、あるいは恋人への手紙か。
「恋人宛てだったらどうするよ、フォックス?」
「な、なんでオレにそんなこと訊くんだよ!?」
 ファルコがニヤニヤとフォックスに訊ね、聞かれた本人は真っ赤な顔をした。
 と、それと同時に、運悪くかミュウツーが談話室に来た。
 恐らくは喉が渇いて水か何かを飲みに通りかかっただけだろうが、皆の視線が彼に集まったのは言うまでもない。
《…な、なんだ?》
 あまりにも突然で、なおかつそんな状況に陥ったことのないミュウツーは一瞬焦りを感じた。
「ね、ミュウツー。カービィが珍しく手紙を書いてるんだって。誰宛てか聞いてない?」
 ネスの質問に怪訝に感じたのか、あるいは少し頭にきたのか、ミュウツーは眉を吊り上げる。
 何故、ミュウツーに聞いたのかといえば、カービィが密かにミュウツーと皆には話していないことを話している、そんな噂がメンバー内でささやかれていたからだ。
《何故私が…――》
 ミュウツーの言葉が途切れた。何か思い当たる節があるようだ。
「誰か知ってるんだね!」
《…だから教えろと? 相当趣味が悪いな、貴様ら》
 鋭く冷たい口調の言葉が皆の胸にぐさりと突き刺さった。
《それより、のんびりしていていいのか? 明日はトーナメントだろ》
 そう言ってミュウツーが談話室を出て行った瞬間、皆の声が重なった。
「「そうだ! トーナメント!!!」」




−翌日−




『タイムアップ! サムス-1ポイント、カービィ+1ポイント! 勝者カービィ!!』
 どこからともなく聞こえたアナウンス。
 今回のトーナメントは1対1の3分間のタイムバトル。
 今行われていたのは準々決勝で、サムスVSカービィだった。結果はアナウンスの通り。
「今回はやけに気合が入ってたじゃないか」
「えへへ♪」
 この時は笑顔なカービィも、先ほどのバトルでは気合が入っていただけでなく、普段とは違う気迫があったと、サムスは感じた。
 勝ち負けを拘らずいつもスマデラをしているカービィにしては珍しく、何かあるのは分かったが、サムスはその辺について詮索しない方だ。
「サムスさん、お疲れ様です」
 サムス側の控え室で、サンドバックくんがタオルを差し出して言った。
「カービィさん、かなり奮闘してましたね。一昨日の条件の所為ですかね…」
「条件?」
 手渡されたタオルで汗を拭いながらサムスは言った。
「はい。なんでも今回のトーナメントで優勝という条件でマスターハンド様と何か約束をされたようです。その条件を伝えたのはぼくなんですけどね」
「ふーん…」
 そう言って振り返ったのと同時に、視界にロイの姿が入った。どうやら今の話を聞いていた様。
「じゃあ、ぼくが見かけたのはその条件を話してたとこだったんだ…」
「昨日、みんなが談話室で騒いでたのはそのこと?」
 サムスが聞くとロイは肯いた。あの時、サムスを含め、数名は談話室にいなかったのだ。
「なんでも、カービィが誰かに手紙を書いてるんだって。手紙を書くことはいいことだとは思うんだけど、みんなは“きっと何か裏がある!”みたいなことを言って騒いで…」
「みんな、お節介というか野次馬根性丸出しというか、そんな感じだもんな」
「それ、貴方にも当てはまってる」
 ファルコンの言葉に対してサムスはそう言った。ファルコンは図星を突かれたような顔をし、ロイはその光景に苦笑いした。




 その後、カービィは準決勝でガノンと当たったにもかかわらず、見事に勝利し、決勝進出。
 決勝戦のステージはフラットゾーン。相手はマルスだった。マルスもカービィの手紙の件を知らない。
 今は残り時間1分をきったところだった。
 お互いポイントは0だったが、明らかにカービィの方がダメージを食らい、少しふらついていた。
 一方マルスはダメージは受けているものも、カービィほどではなかった。
「決勝に来るまでに全力できすぎたんじゃないかい?」
「ま、まだまだだよ!」
 長剣を使うマルスはリーチとその剣の先端の攻撃が強力だ。かといって接近戦に持ち込んでも、カウンターで返り討ちにあうのは目に見えている。今のカービィには少しのダメージでも命取りだ。
 カービィが今できる事といえば、このまま防戦に持ち込みタイムアップにし、サドンデスで飛び道具が使えるという特権で先手を狙うぐらいしか思いつかないだろう。
 しかし、軍の指揮をしていた事もあってマルスの方が知略に優れている。サドンデスに持ち込ませないよう、カービィに一瞬でも隙があればそこを確実に狙ってくるだろう。
 まさに万が一にしかカービィの勝ち目はない。ましてやフラットゾーンはギミックとしてたまに物が雨のように落ちてくる為、それにも警戒しなければならなかった。
「いやっ! えい!!」
「くっ!」
 カービィのファイナルカッターの衝撃波がマルスの頬をかすめた。だが、そんな大きなダメージにはならない。
 後、約20秒。
 そんな時、カービィは、突然マルスとの間を大きく空けたかと思えば、その場でスマッシュための体勢に入った。全くの隙だらけだ。
 マルスもスマッシュを決めようとすかさず走った。が、突如カービィとマルスの間にギミックである黒いスパナが落ちてきた。
 すかさずマルスはバックステップでかわす。しかし、瞬時にマルスはまさか、と思ったが、遅かった。
「てやぁっ!!」
 カービィの最大ためのスマッシュキックがスパナに当たる。
 猛スピードで飛んでくるスパナをマルスはかわしきれず、直撃して後方に吹っ飛ぶ。。
 これが普通のステージだったら復帰できただろう。しかしフラットゾーンは狭い為、っその勢いでマルスは場外に飛ばされた。
『タイムアップ!マルス-1ポイント、カービィ+1ポイント!勝者カービィ!』
 マルスがステージに復帰したと同時にアナウンスが響いた。




 トーナメントの結果発表が終わり、屋敷に戻ってきた皆はゆっくりと談話室で寛いでいた。
「凄かったよ。まさかギミックを飛ばしてくるとは思わなかった」
 マルスがそう、カービィに絶賛の声をかけた。カービィは照れるように笑った。
 するとカービィは、目をしょぼしょぼさせたかと思うと、ソファーの上に体をコテンと倒した。
「カービィ?」
「ZZZzz…」
 どうやら疲れていたから寝てしまったようだ。
 確かに今回のカービィの頑張りは目を見張るものだった。疲れていて当然だろう。
「運んでやれよ、フォックス」
「だーからなんでオレなんだよ!」
 またファルコの意見に顔を赤くするフォックス。
「あら? 寝てしまったカービィを運ぶのは、フォックスさんのお仕事ではありませんの?」
「いつの間にか定着してましたしね〜」
「絶対イジメだ…」
 ピーチとヨッシーの意見に思わずうなだれるフォックス。
 しぶしぶとだが、フォックスはカービィを背負い、カービィの部屋へ向かった。
「嫌なら他の連中に頼めばいいのにな」
 そう、ファルコが言ったのにフォックスは気づかなかった。




「よいしょ…と」
 ゆっくりとカービィをベッドに寝かせるて、掛け布団をかけてやった。
(そういえば…カービィの部屋はよく入るけど、じっくり見たことないんだよな…)
 カービィは用があれば部屋に来る方だから、カービィの部屋で話す事はない。
 オレはまじまじとカービィの部屋を見渡した。ベッド以外には、星型のライトなど星で統一されている家具(といえるのかこれらは…)、出窓には星の形の花が植えてある鉢、そして部屋の真ん中には白くて丸型のちゃぶ台があった。
 棚にはあまり生活用品と思えるものは置いてなく、カービィ個人で集めた物が並べてあった。あとは大きい写真立てがが3つ並んで飾られている。この写真立ても四隅に星が付いていた。
 大きいやつの一つは“スマブラ”だった時、オレとカービィを含めた12人で撮ったもので、もう一つはスマデラになって12人からもっと加わって26人になって取ったものだ。もう一つは見たことのない人ばかりだった。カービィを中心に撮られているところからして、カービィの世界にいる仲間だろう。
 カービィが使うハンマーと同じハンマーを持った王様っぽい赤いガウンを着た人(多分デデデとかいう人)、活発そうな青年とそれと睨み合ってる猫耳の青年、ファルコみたいなやつ、赤い絵描き帽を被った女の子(この子は名前だけ聞いたことがある)、黒髪でカービィと大差ない背の少年…などたくさんの人が写っていた。名前は聞いたことのない人もいるだろうが、カービィが話すカービィの世界の話には大体彼らが混じっている。
 今度は視点をちゃぶ台の方へ向けた。
 レターセットと小さな星のキーホルダー(星多いな…)が付いたペン。そして普通サイズの写真立て。
「あ…手紙…!」
 今更になって思い出した。カービィは誰かに手紙を書いているということを。
 …いやいや、人の手紙を読むなんてそんなこと……宛名ぐらいはいいよ、な?
 オレは便箋の横に置いてあった封筒をみた。普通、宛名は封筒に書くからな。
「…読めない…」
 全く見たこともない形の文字。恐らく、カービィの世界の文字…だろう。
 この間、頑張って英語(オレとかファルコンさんとかネスとかが使う)で書けるようになりたい!とか言ってたからな。
 封筒を元あった位置に戻すと、今度は写真立ての方を見た。
 写真に写っていたのはカービィとのツーショット写真。相手は仮面を被っておりカービィよりもかなり背が高く、マルスやロイみたいな格好、つまりは騎士に格好をした青年だった。
 多分、無理やり取らせたんだろうか。カービィが青年の腕を引っ張って無理やりこっちに向かせているようだった。
 …手紙の宛先はこの青年だろうか?
 立ち上がってふと気づいたのがカレンダー。
 23日のところがおおげさに赤丸で囲んであった。かなりへなへなの文字だったが、“Birthday”と読めた。試しに英語で書いたんだろうな
「…誕生日? 誰の…あっ!」
 その時オレは全部分かった。
 スマデラの世界とオレ達招待されたメンバーの世界をつなぐ道――次元の歪みは非常に不安定なのをマスターから聞いたことがある。ちゃんと通れるようになるのは月に2回、日にちでいうと一日と十日あたりだけ。マスターの力で強制的に通れるようにすることも出来るらしいが、それは大きいものを通らせようとするほど危険な行為だというのも聞いた。
 カービィが用があるのは23日だ。通れる日とは全然違う日だ。
 恐らく、この写真に写っている青年の誕生日を祝いたい為に、トーナメントで優勝したら23日に手紙だけでも送って欲しいと、マスターに無理に頼んだのだ。
「全く…カービィらしいな」
 オレはカービィの顔を覗き込んで呟いた。
「…い…とぉ…」
「?」
 カービィはよく分からない寝言を言いながらも笑顔で眠っていた。どんな夢を見てるんだか。
 そのままオレは部屋のライトを消して、部屋を出た。

 部屋の外でファルコが変なことを言わなければいい時間だったかもしれない…。







 23日、カービィは無事に手紙を書き終え、ちゃんと送れたらしい。
 証拠にその日、いつも以上にルンルン気分だったのをみんな見た。
 その後、オレはカービィにあの青年がどんな人か、訊いた。
 あ、バレちゃった?とか可愛く笑って言った後、カービィはこう言った。

「ミュウツーみたいな人♪」



 ああ、それでミュウツーと…
 ―って…どんな人だ…?





≪BACK≫







あとがき
密かにフォックス→カービィ(笑
3月23日、誕生日だったのに間に合わず、なのに書きました。
何か書きたかったんですよ〜…ね?(何
マルスファンの皆様すみません、マルス負かしちゃって(汗
あの時点で一番マルスとの戦闘シーンが書きやすかったんです。
決勝までいきそうだしね。
とりあえず主題はカービィがあの人の誕生日の為に奮闘する。
副題はフォックス→カービィ&スマデラをやってるシーンを書くでした(ぉ
微妙に加筆+修正しますた。