イチゴ狩りに
なんでかはよく分からないけれど
ぼくはいつも「ぼく」とかそういう口調で話しているのに
彼女の前では
「オレ」とか少し強がった感じで
「普通の男の子」みたいにふるまってしまう
そんな自分の気持ちが恋と分かったのは
つい最近のこと
最初はなんでかよく分からなかった。
はたからみれば普通の女の子にしか見えない彼女。
初めて会った時はそんなに意識していなかったのに、いつの間にか、彼女の姿を探すようになった。
だから頼れる人―マルスとかに相談したんだ。
そうしたらマルスはなんて答えたと思う?
「それはロイが一番分かってるはずだよ? 分からないなら二人っきりになってみるとか、あの子の前で思ったことをそのままやってみればいいよ」
…あくまで自分で見つけろって感じだった。
その後がいけなかったかもしれない。
ぼくはすごい場面に出くわしてしまったんだ。
…思い出すだけでこっちが恥ずかしくなるようなことだった。
メンバーの中でも一番仲のいいコンビでもあるポポとナナが…
その…なんていうか…
き…キス…してたんだ…
彼らってぼくより年下だって聞いてたけど…。ああ! なんか信じられない…!
その、信じられないっていうのは…翌日のぼくの行動で。
なりゆきで、彼女と…二人っきりになって…。
ぼく、その時どう思ってたんだろうか…
瞳が綺麗だなとか…ピンクの髪が可愛いなとか…
仕舞いには…ぼくもやっぱり男だ…
彼女はどんな味がするんだろう…なんて思ってしまって…
その時、イチゴミルク味の飴を舐めてたのもあって…
いわゆる…口移し…をしてしまったんだ。
…あの時はよく平気でいられたと、ぼく自身不思議に思う…
その日はマルスに色々言われたけど、はっきり覚えてない。頭の中がその感触でいっぱいだったから。
ただ唯一得をしたとすれば…その彼女への気持ちに気づくことが出来たことかも。
それから1週間ぐらい経った。
ぼくが起こしてしまったあの事件以来、彼女とはよくいるようになった。
でもどこかぎこちない、少し距離があるような間柄だった。
時々、ピカチュウの視線(ピカチュウは彼女の事が好きらしい)が痛かったりするんだけど、そういうことで距離を置いているようには思えなかった。
…やっぱり、あんなことするんじゃなかったと、今では痛いぐらいに後悔している。
できれば、またあの時みたいに二人っきりで話したんだけれど…特別な理由がない限り無理そうだった。なぜなら、二人っきりになれても周りに絶対誰かいるし、緊張してしまってなかなか話せないんだ。
そんな風に思ってた矢先、あるチャンスが飛び込んできた。
それはある昼下がりのこと。
いつものようにみんなそれぞれの時間をすごしている中で、ぼくは珍しく一人だった。というのも、彼女――プリンは今ピーチ姫と一緒に街へショッピングに出かけていたから。
久々に談話室のソファーで寝転がってた時、ポポやナナ、ピカチュウ達の話し声が聞こえた。
「みんなはどんな果物が好き?」
「リンゴ!」
「ピチューも!」
「ボクはなんでも好き♪」
「私は…苺かな。2回ぐらいしか食べたことないけど」
「苺かぁ〜」
あ、そうか。ナナとポポの住んでいる辺りは殆ど冬なんだっけ…。
「じゃあさ、今度苺狩り行こうよ! もちろん、メンバー全員で!」
「でもさ、ネス。苺がたくさんなってる場所って知ってるの?」
「うっ…」
「あっ、そうだぁ! グルメットなら苺がたくさんなってる場所あるよ!」
ぐるめっと、ってどこのことだろう。名前からしてカービィの世界の場所かな。カービィが言うんだから苺がなってるのは確かだろう。
「ぐるめっと?? カービィの世界にある場所なの?」
「うん! 苺だけじゃないよ。食べ物ならた〜くさんあるんだよ!」
「きっとヨッシーやドンキーなんか別の食べ物とってそうだね」
「カービィちゃんにもぴったりな場所だね♪」
「あ! それってどういう意味さ、ナナ〜」
苺狩りか…聞いたことはあったけど、実際やったことはないや。
「じゃあ決まりだね。早速みんなに言ってこよう!」
子供リンクがそう言うと、おーっ!っという作戦開始みたいな掛け声をあげて、子供達が散らばっていくのが微かに見えた。
「あ、ロイお兄ちゃん」
ピチューがぼくのそばにやってきた。目がルンルン気分な感じがする。
「聞いてたよ。苺狩り、ぼくも行くのに賛成だよ」
「やったぁ♪」
ぴょんと跳ねてピチューは喜んだ。すると今度は耳打ちするかのように近付いて、小さな声で言ってきた。
「ピカ兄ちゃんに言うとショックうけるかもしれないけど…プリンお姉ちゃんと二人っきりになれるかもよ♪」
「こ、こらっ!!」
「うわぁ〜! ロイお兄ちゃんが真っ赤になって怒ったぁ〜♪」
ああ! もう、完全にピチューに茶化された! あの子、時々とんでもないこととか言ってくるからなぁ…。
…と、こんな感じで、カービィの世界に苺狩りに行くことになった。
殆どの人が賛成してくれたらしいけど、中にはガノンさんとかが「そんな所いく気にもならんからお前らだけで行け」とか言っていたらしい。でもマスターが、「ほぼ全員で行くのならいっそのこと全員で行ってくれ。誰も留守番にならない方がいい」と言った為、半ば強制的に行かされることになったらしい。
今そのグルメットに向かっているなんだけど…何度見る度にカービィの世界ってファンシーというか、メルヘンチックな気がするんだよね。
「みんな!こっちこっち!」
割と高い山を登って、頂上近くまで来るとカービィはおおはしゃぎだった。
カービィについて行って見えたその場所に、ぼくやマルス、ファルコンとかこういうのに慣れてない人はみんなが驚きを隠せなかった。
「まるでおとぎ話の中にいるみたい!」
ナナがそう言った。
そこは、木に食べ物がなっていたり、色んな所に食べ物が浮いてたり…とにかく食べ物がたくさんある場所だった。
さすが“グルメ”とつく場所だけある気がする。
なんかしまいにはお菓子の家があって、そこに魔女とかいたりしそうだ。
「じゃあここからは自由行動にしよう。日が傾いてきたらここに集合で」
苺が沢山なっているところに着いて、そうマリオさんが言ったのと同時にみんな散らばっていった。
「ロイ!」
適当な場所を見つけて座っていた時に、プリンがパタパタと近寄ってきた。その手には既に摘んだ苺を入れるように持ってきた籠を持っている。
息を切らしながらもぼくの隣に来ると、彼女はちょこんとその場に座った。
「ここの苺って甘いね♪ プリン、こんなに甘い苺食べたの初めて!」
「プリンはもうたくさん摘んだみたいだね?」
「うん! ロイは?」
「ぼくは、少し食べただけ。きっと、帰ったら苺のお菓子とか作るだろうし」
というか、なんかこの後3日間はおやつとかが苺尽くしが続きそうだ…。
「「……」」
急に会話が無くなった。
遠くでカービィやピチューが騒いでる声や、ピーチ姫とゼルダ姫が談話している声が聞こえる。中にはドンキーとヨッシーが競い合ってる声も。
「「あの!」」
声が重なった。
ぼくもプリンも少し焦ってしまう。
「ロ、ロイからいいよ?」
「い、いや、プリンからどうぞ」
しばらく間を置くと、プリンが少し顔を赤らめて、ぼくの顔をちらっと見た。
「この間のこと、なんだけど」
「この間って…」
「その、ロイ、が…そのぉ…」
「う、うん。分かるよ」
正直、今ぼくはどんな表情をしているのか自分でも分からない。もしかしたら、耳まで真っ赤になっているのかもしれない。
「その、ロイは…なんで、したの?」
「えっと、そのね…」
プリンはさっきと違ってぼくの顔を見つめてきた。
やっぱり、肌が白くて、翠色の瞳が綺麗で
可愛い
「可愛かったから、かな?」
「そ、そうなの? プリンは全然可愛くないよ…?」
そうは言っているものも、プリンはその採ってきた苺のように顔を赤くして照れていた。
「でも…その理由は二番目かも」
「二番目? 一番目は?」
「一番目は――
プリンのこと、好きだから
「…えっ?」
今しかなかった。
ぼくの気持ちを正直に伝えるのは。
これ以上隠しきれない。
「ぼくは…プリンのことが好きだ。好きだから、あの時プリンが可愛い顔してて…自分を抑えられなかった。だから…キスした」
最初はきょとんとしていたが、プリンはじっとぼくを見て話を聞いていた。
「表側は、自分の世界での振舞いの仕方で接してるけど…中ではすごく、いやらしいんだよ、ぼくは。やっぱり、男だから」
ああ、もう嫌われたかもしれない。
そう思った時、プリンが口を開いた。
「プリンは、ある人に恋してるの。その人はいつもピチュー達と遊んでくれたりするお兄ちゃんなところもあれば、マルスとお話してる時一生懸命考える子供な時もあるの」
そのまま彼女はぼくを見て、にこりと笑った。
「でも、本当に好きになったのはそのことに気づくもっと前。その人と初めてチームバトルをやった時、プリン、投げられたボム兵に当たりそうになったの。その時、その人がプリンのこと抱えて、助けてくれたの。でね、プリン、その瞬間、その人のこと
王子様に見えたの
「王子様?」
「そう。変かもしれないけど、プリンだけの、おとぎ話の王子様。その時から、プリン、その人のこと好きになったの」
ぼくのことを見つめてくるその目は、すごくキラキラしてた。
素敵な恋に焦がれる女の子。まさにその言葉がぴったりの瞳。
そして、またプリンの唇が言葉を紡いだ。
「プリンは…ロイのことが好きだよ」
一瞬、心臓が、何もかもが止まりそうになった。
「オレって言ってる時のロイも好き。だから、ロイにキス…された時、全然イヤじゃなかった」
「本当?」
「ウソついてないよ」
それ以上、言葉は要らなかった。
お互いの手と手を重ね合わせるだけで、十分だった。
「それでは、苺狩りを再開しましょうか、姫君?」
「…なんか照れるよぅ」
やっぱりプリンは可愛い。
甘酸っぱい苺よりも甘酸っぱい、そんな気持ちをくれた子だから。
「ねぇ、ロイ」
「うん?」
「今度は、プリンからしていい? …キス」
「…構わないよ」
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