卿についてあれこれ








「いつでもいいんだけど、私の部屋に来てくれない? 訊きたいことがあるの」

 数日前だが、突然フーム様はそう仰った。フーム様は滅多なことで我々に用事を仰らない。だからなぜ呼ばれたのか、理由が一つも思い浮かばなかった。
 ブレイドと色々と考えたが結果が出るわけでもなく、特に用もない今、大臣一家が使っている部屋と足を向けている。
 部屋に入ると、フーム様はカービィに本を読んでいたところだった。
「あ、きてくれたのね」
 我々に気付いたフーム様はカービィに何か一言言って本を閉じた。残念そうなカービィの表情を見ると、悪いことをしたような気になった。
「立ってないでそこに座って。きっと長くなるでしょうから」



「メタナイト卿、のことですか?」
「ええ。貴方達が知ってることだけでいいから教えてもらえないかしら?」
 フーム様が星の戦士について興味を持っているということは知っていたが、まさか卿のことを訊かれるとは思ってもみなかった。
「とは仰いましても…何からお話すればよいか…」
 ソードが困った顔をする。俺だって何を話したらいいのか分からない。
「なんでもいいのよ。戦争の時の活躍とか…大戦時の時じゃなくて今のことでもいいわ」
「大戦時の卿…ですか…」
「あ、別に堅くならないで。自然に話してちょうだい」
 今のフーム様の顔はワクワクしている、そんな感じだ。その隣にいるカービィも。
「俺達が卿に出会ったのは、大戦の末期…殆ど決着がついているような時期だったから活躍については詳しくは知らないんだ」
 そう、俺達だってそんなにたくさん卿のことを知ってるわけじゃない。ただ、家臣として忠誠を誓っていて、ここにいる人達よりか付き合いが長いだけ。
「銀河戦士団の中でも最年少で卿と呼ばれる程だったと、風の噂で聞いたことがあります」
 確かに卿は、どの星の戦士――銀河戦士団の幹部の人より若かった。あの若さでなったんだ、才能もあるだろうけどきっと血のにじむような努力をしたに違いない。
「上の階級の方に影ではかなり厳しい目で見られていた、と話してくれたことがあります」
「影でってどういうこと?」
「メタナイト卿はオーザー卿からも実力を認められていて、部下からの人望も厚く、若い戦士や他の人の憧れの的だった」
「…確かにそれなら自分の地位に取って代わられると思って厳しく当たるわ…」
「そんな功績の割には、なんだか別格の雰囲気がしましたね。まるで他の戦士たちとは目的が違うような…そんな感じでした」


「そういえば、終戦後も貴方達は一緒にいたんでしょう?」
「ええ。卿の宇宙艇の魔獣探知機を頼りにいろんな星を転々と」
「でも、殆どどの星も一週間もいなかったなぁ…。一番長くて一ヶ月ぐらい。ポップスターに初めて着いた時はまさかこんなに長くいるとは思わなかったよ」
 ブレイドは苦笑しながら言っているが、私はそうは思わなかった。
 プププランド周辺を一回りした時の卿の顔つきは他の星の時とは違っていたから。きっと確信があったんでしょう、必ず次世代の星の戦士がくると。
「ぽよ?」
 どうやら私が見ていたのに気付いたらしく、カービィは首をかしげた。
 本当、初めてカービィを見た時は正直驚いた。こんな幼く、小さな子が魔獣と対等に渡り合えるのかと。実際は私やブレイドだけでなく、卿の予想をも上回る活躍をしてるわけですが。
「じゃあ、ポップスターに来る前のこと、聞かせてくれない?」
「そうですね…卿は今と違って、全然話をしてくれませんでしたね。時々、我々の行動を見て思い出したかのように銀河戦士時代のことを話すぐらいで」
「ああ〜! 一番長くいた星で、一日中読書してるソードを俺が外に出かけさせようとした時だっけ? 俺のこと見て、アイツに似ているなとか言ってたなぁ」
 そんなこともあったな、と思う。ブレイドと起こした色んなことは覚えていられないほど多いから。
「アイツって?」
「きっとジョーのお父上のことでしょう。年は離れていたようですが、親友と呼べるほど仲が良かったんだと思います。話してくれる話題にはいつも出てきましたから…恐らく、あの方と一緒に過ごした時が一番充実してたんじゃないのかと…」
「そう…。だとすると、辛かったでしょうね…魔獣化したとはいえ親友を手にかけるのは…」
 私だったらどうだろうと、考えてみたことがあった。もしもブレイドが魔獣化してしまって私達を襲ってきたら…多分私は本人に懇願されてもブレイドを自分の手で殺めることなどできないだろう。そう思うと、卿はお強い方だ。
「…なんだか空気を重くしてしまいましたね」
「そ、そんな気にしなくていいわよ! 訊いたのは私の方だから…」
「あ!」
 唐突にブレイドが声をあげた。何か思い出したのだろうか?


「フーム様、知ってますか? 卿の弱点!」
「え? メタナイト卿に弱点なんかあるの!?」
「ぽよ?」
 ソードがぎょっとした顔つきになったが、この際どうでもいい。今の俺は、普段は言えない皆が知らない卿の実態を全て洗いざらいにしてやってもいいぐらいな気持ちだ。
「卿って料理がメチャクチャ下手なんだよ、これがもう声が出ないほど驚くぐらいに!」
「えぇ!? 信じられない!」
「ぽよよ!」
「ブ、ブレイド! その話は――」
「どんぐらい酷いかっていうとな、卿にとって台所は安全に歩く隙間すらない地雷地帯って感じで!」
 必死にソードは俺の口を止めようとするが、そんなの無駄無駄。こういう時に限って実力行使に出ないのがソードの欠点だ。
「食器は粉々になるし、まな板を野菜ごと切るし…あと、コンロ使ってもどうやったらそこまで火力を上げられるんだってぐらいデッカイ炎を出すし! 卿に台所は立たせちゃいけないね、うんうん」
 フーム様とカービィは唖然としている。当たり前だよな、普段あんなに凛々しい人か実はこんなにも料理が下手なんて。普通、野営とかする時の為に多少はできるだろうに。
 実際は何回台所で爆発を起こしたか分からない。それで「ああ、ちょっとやり方を間違えただけだ」という卿もすごいんだが。
「…でも大体3割の確率でマトモな料理が出てきますから、使い方が悪いだけですよ。…多分」
「ほら、お前だって認めてるんじゃないか!」
 ソードのフォローはフォローになってなかった。後が怖いのは俺だって承知なんだよ。




 ○月□日 晴れ
 今日はフーム様とカービィに私達の昔の話をしました。
 話している内に酷く懐かしい感じがしてしまいました。そんなに昔の話ではないのに。
 ブレイドが卿の料理の話をしてからは、もう恐ろしいぐらいだったんですけど…。
 話が終わった後、フーム様はとても満足していたようでした。
 何故、卿のことを我々に聞いたのか、訊ねてみたところ、
 「メタナイト卿ってよく分からないところがあるから知りたかった」
 とのこと。
 その後、フーム様かカービィ、どっちが言ったのかどうかは分からないのですけど――

「お前、フーム達に何か余計なことは言ってないだろうな?」
「な、なんのことですか?」

 卿が鬼気せまる雰囲気でブレイドを問い詰めてました。
 ブレイド、ご愁傷様です。(というか自業自得です)
 そうそう、フーム様達には話していなかったのですけど、
 カービィがきてからの卿は

「…まぁ、いい。いつもの朝のランニングを倍にするだけの話だ」
「げげぇっ!? そ、それだけは勘弁してくださいよ!!」
「卿、それは笑っていうことではありませんよ」
「ふふ…そうだな」
「フォローはなしかよ、ソード!」



 よく、笑顔を見せてくれるようになりました。






 
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あとがき 
意味プー(何
とりあえず、ソードとブレイドによる卿の話を書きたかっただけです(^^;
うちの卿はこんな感じなんですよ、ええ(何
また卿の話、書きたいです。彼らの視点で書くと色んな卿が書けて楽しいんですよ(笑