平和な日












 その日は至って穏やかだった。
 騒ぎも何一つ起きず、日常茶飯事こりずに魔獣をダウンロードしているデデデ大王も、今日は日光浴を楽しんでいるだけだった。
 勿論、その穏やかさは“彼ら”にも行き届いていた。
「平和…だな」
「ええ、そうですね…。こんな日は久々だと思います」
 主の言葉に、一人が答えた。
 普段なら城内の見回りをしている時間だが、それが必要ないほど今日は穏やかだった。
 さしずめ、休日と言ってもよい。
「でも、たまにはこういう日もいいと思います」
「…ああ」
 もう一人の言葉に、主は簡単に相槌をうった。その暖かな日差しが差し込む窓の外を見ているようだが、何を思って見ているのかまでは分からない。
「一緒に外行かないか、メタナイト卿!ソードとブレイドでもいいんだ!」
「ぽよ〜♪」
 突然の来客にそこにいた二人―ソードとブレイドは振り向いた。主―メタナイト卿は窓の外を見つめたままであった。
「ブン殿にカービィ殿。我々に何か…?」
 ソードが二人に近付いて訊ねた。
「へへっ。ちょっと誰かに付いてきてもらいたいんだよ。こんな日だし」
「…釣り、ですか?」
 ブンが持っていた釣竿を見て、ブレイドは訊ねた。
「あったり〜♪たまにはサッカーじゃないものもやりたかったしな」
「ぽよぽよ♪」
 目を輝かせている二人を見た後、ソードはちらりとブレイドを見る。
 ブレイドはなんだか行きたそうな感じだ。相棒であるからこそ、その辺はよく分かった。
「ブレイド、行ってくれば?」
「えっ…!…でも…」
 まるで図星だったのように驚いたブレイドは、戸惑った様子で不意にメタナイト卿を見た。
「…たまには息抜きも必要だ」
 そう言っただけでメタナイト卿はまだ視点を変えようとしなかった。
「…それじゃあお言葉に甘えて」
「よっしゃ!行こうぜ!」
「ぽよっ」
 部屋を出て行く三人の姿は、まるで友達同士のようだった。それだけブレイドの雰囲気がいつもより楽しそうだった。
「ソード、お前もだ」
「へ?」
 突然言われた為、ソードは拍子抜けした声を出した。一瞬、何が自分もなのだろうと、疑問に感じた。
「今日は特に警戒する事もないだろう。こういう時間こそ、大切にした方がいい」
 メタナイト卿は淡々と言った。ソードはどうしようかと暫く考え込んだが、一礼すると部屋から出て行った。




 ププビレッジの近くを流れる川。
 時々、カワサキが魚料理の為に釣りに来るぐらいしか釣りをする者はいない。
「へぇ〜…ブレイドって暇な時に釣りしてたんだ」
「ここに来てからは何故か全然しなくなりましたけどね」
 忙しいからかもしれませんね、と付け加えてブレイドは笑った。
 ブンはふ〜ん、と相槌をし、釣竿を見つめていた。カービィは待ってるのにもう飽きたのか、近くを飛んでいた蝶を追いかけまわっている。
「しっかし…全然釣れないなぁ…」
「釣りは待つことが肝心なんですよ。焦っていたらいざかかった時の対応が遅れますから」
 慣れている所為もあってか、ブレイドは楽しそうだった。逆にブンはいつもは動き回ってる方だからか、退屈そうに空を見上げた。
「なんだか夢でも見てるぐらい平和だなぁ…」
「そうですね」
「ぽよっ!」
 振り向くと、カービィが蝶を捕まえ損ねて転んでいた。
 よくありそうな光景だが、二人は笑った。




 書庫に来るのも久々だとソードは思った。
 ここに仕えるようになってから本なんかと無縁な生活してるからなぁとでも言いたい気分だったが、やめた。この静かな雰囲気を感じていたいから。
「あら、ソード。貴方がここに来るなんて珍しいわね」
 書庫には先客がいた。普段、ここを利用するとしたら彼女かエスカルゴンぐらい。
「ええ。今日は特に何もなさそうですから」
「ふふ。確かにそうね」
「フーム様は調べものですか?」
「ええ、そうよ。面白い本がないか探してたところなの」
 なんだか楽しそうな声で言うフーム。そんなに本が好きなんだ、とソードは思った。
「何か、良い本はありましたか?」
「ええ。部屋で読もうと思ったんだけど…ちょっとありすぎて。何回かに分けて運べはいいんだけど、デデデに見つかってまた変な誤解をされるのは避けたいのよね…。こんなに穏やかな日をぶち壊しにされたくないもの」
「ごもっともなご意見で」
 デデデといったらカービィの1周年記念パーティの時といい、絵の時といい、何回反乱だのクーデターだの誤解すれば気が済むのか。
 少しばかり二人は黙った。かと思えば二人同時に何か思いつく。
「貴方が運ぶの手伝ってくれないかしら?」
「なんなら私が運ぶのを手伝いましょうか?」
『……』
 ほぼ同時に、ほぼ同じ意味の言葉を言ってしまった。
 あまりにも珍しいからか、二人とも可笑しくて笑ってしまった。




「もう昼か〜…」
 大体真上辺りにある太陽を見ながらブンはぼーっと言った。
 いまだ釣りの浮きは動く気配を見せない。かれこれ2時間ぐらい。
 ブレイドは真剣に浮きを集中してみているし、カービィは蝶を追いかけることに疲れたのか、木陰で気持ちよさそうに寝ている。
「たっく…なんで釣れないんだ―」
「ブン殿!掛かってますよ!!」
「えっ!?う、うわぁっ!!」
 なんとか釣竿を引っ張るものも、なかなか持ち上げられない。
「手伝います!」
「カービィ!!お前も寝てないで手伝え!!」
 騒ぎに気づいたカービィは飛び起きてブンの下元を引っ張る。ブレイドはブンと一緒に釣竿を引っ張った。それでも少しだけ引きずられるほどだ。
「かなり大物ですよ…!」
「いっせいの、で引っ張るぞ!」
「わかりました!」
「ぽよ!」
「いくぞ〜…いっせーの!」
 一気に三人がかりの力で吊り上げる。だが、川から大きな水飛沫をあげて2mはあろう巨大魚が陸地に上げられた。水飛沫の所為で三人ともずぶ濡れだった。
「うわぁ〜…でけぇ…」
「ぽよ〜…」
「っていうかありえませんよ、こんな川にこんな大きな魚…魚影なんて全然見えませんでしたよ…」
 思わず唖然としてしてしまう。魚は威勢が良く、ビチビチと跳ねていた。
「で…どうするんだこれ。持って帰るのか?」
「…戻しましょう。その方がいいでしょう」
「だよな。…カービィ。川の反対側へ行くんだ!」
「ぽよ」
 言われた通り、ブンたちがいる所と川を挟んで反対側にカービィは移動した。
「どうするんです?」
「まぁ、見てなって。カービィ、そこで魚を吸い込むんだ!でも食べるなよ」
 ブンがそう指示すると、カービィは魚に向けて吸い込みをした。
 多少は引きずったものも魚は川まで移動し、バシャンと音を立てて川に戻っていった。三人ともまた水飛沫で塗れてしまった。思わず笑がこみ上げる。
「あはは!そろそろ帰りましょうか。このままでは風邪を引いてしまいますから」
「ああ!釣りも結構楽しかったな」
「ぽよ♪」




 パーム大臣一家が住んでいる部屋のリビングまでは入った事はあるが、フームの部屋に入るのはソードにとって初めてのことだった。
 様々な本が詰まった本棚に様々な道具。フームの研究熱心さが分かる部屋だった。
「この本はどこに置いておけばよろしいですか?」
「机の上に置いて貰える?」
 フームは机の上にあった道具をしまった。
 ソードが運んだ本は殆どあの銀河大戦の関連書物。運ぶ前に内容をちらりと読んだのだが、全てが真実をつづった物でないようだ。
「やっぱり気になる?なんで銀河大戦に関連するものばかりなのか」
「ええ…少し」
「最近興味を持ち始めたの。銀河大戦のこと、銀河戦士団の戦いのこと。…メタナイト卿に聞けば早いのかもしれないけど…辛いことを思い出させることになるからやめたの」
「フーム様は、お優しいですね」
 ソードがそう言うと、そんなことない、と言ってフームは顔を赤くした。
「と、ところでソード。貴方達はいつ頃出会ったの?少なくとも貴方とブレイドは銀河戦士団じゃなかったみたいだけど…」
「そうですね…殆ど終戦時でしたね。卿が仰るには、また銀河戦士団を設立させないように生き残った戦士達を探し出して、魔獣に殺させていた頃だったらしいです。その時期も大戦に入るのかもしれませんが」
「そうだったの…」
「そんな悲しそうな顔をしないで下さい。私もブレイドも、卿に出会えただけで嬉しかった。寧ろ卿に出会うことが無かったら、魔獣にやられて生きてなかったかもしれませんから」
 ソードはしんみりとしてしまった空気を何とか戻そうとした。
 フームはしばらく考え込むと、肯いた。
「今日はありがとう。またお話を聞いてもいいかしら?」
「私でよろしければ是非」
 フームの言葉に一礼をして、ソードはフームの部屋から出て行った。






「でさ、あんなにでっかい魚がこんな川にいるのかよ!って思ったんだ」
「この星はまだまだ分からないことがたくさんあるからな…」
 自分達の部屋に帰ってきて、今日の出来事を談笑する二人。そこへ、どこかに出かけていたのだろうメタナイト卿が帰ってきた。
「楽しそうだな。どうやら充実できたみたいだな」
「ええ。今日は楽しく過ごせました」
「たまにはこういう日もいいですよね」
「そうか」
 その時のメタナイト卿は笑っているかのように見えた。
 卿も何かあったんだなと二人は思った。
 その後もソードとブレイドの話は続いた。二人に色々訊かれない限りメタナイト卿は会話には参加しなかったのだが。
「こんな風にお前達と話すのも久々だな…」
 と呟いていたのを二人は聞いていなかった。







END


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あとがき
遅くなってすみません(汗
勝手な設定満載でごめんなさい(汗
ソードとブレイドの日常、というリクを貰ったのですが…
日常じゃなさげ…(^^;
密かにソード×フームになってるかも…(笑