鈍いよ!アイクさん!
談話室のガラス戸の向こうでは子供達に引っ張られるままに遊びにつき合わされているアイクが見えた。
「どうしたものかな……」
思わず溜息が出るのは何故か。別に気にしなくてもいいことなのだが。
「マルス君、どうしたんだい?」
声の主はオリマーだった。
彼はこう見えても所帯持ちだという。初めてそれを聞いたときはマルスも、失礼だと分かりながらもかなり驚いた。
マルス自身も既婚者である。それが共通しているからなのか、オリマーとは他の皆よりも相談事は話しやすかった。
「いえ、なんといいますか。アイクが……」
「アイク君がどうしたんだい?」
「……信じられないぐらい恋愛に鈍いんです」
「それがどうして溜息をつく原因になるんだい?」
「……実は――」
先日のことだ。夜、水差しの水が丁度切れたため水を入れに行った時にアイクと出くわした。彼はこんな時間までトレーニングをしていたらしい。
ついでなので一緒に水を取りにバーへ向かったのだが、先客がいた。
(あ、ファルコンさんとサムスさん)
この時間に二人がいることは珍しくない。子供達が寝静まらないとバーでゆっくりお酒を飲みながら語らうことはできない。
この二人の場合それだけではなく、互いに惹かれあって、というより既に恋人の領域にまで達しているのは周知のことだが、やはり違う世界同士の大人ということか、皆の前ではそういうところを見せないようにしている。なので余計に夜のこの時間は二人にとって大事な時間である。いくらなんでもそれを邪魔するほどマルスは無粋ではない。
「アイク、こっちじゃなくて台所に――」
と、アイクに呼びかけようとしたが既に遅く
「酒を飲んでるところ悪いが、水を取らせてくれないか」
アイクは遠慮なしに近付いてそう言ったのだ。
さすがのファルコンとサムスもかなり驚き、戸惑っていた。
「も、もう飲み終わったところだから……」
「あ、ああ。気にしないでくれ」
そう言って二人共、ぎこちなくバーから出て行ってしまった。
「どうかしたのか、あの二人」
アイクのその発言にマルスは思わず額に手を当てるしかなかった。
「――それは、確かにね……」
「それだけじゃないんです。マリオさんとピーチ姫の方にも気付かないで今度の試合の話を聞いたりとか……極め付けには“ところでなんで二人っきりでいるんだ?”ですよ…いくらなんでもそれはないじゃないですか」
「あの二人はファルコンとサムス以上に分かりやすいと思うんだけど……」
それは確かに困ったことだ、とオリマーも眉間にしわを寄せた。
デリカシーがないというか、十八歳の青年がここまで色恋沙汰に鈍いというのは異常ではないか。
マルスも人の上に立ち指揮をしてきた人間だが、他人の恋愛関係の維持について悩むことや恋愛に鈍い人に手を焼くことは初めてだった。
「ピチューやカービィだってその辺はなんとなくでも分かってるっていうのに……アイクのあの鈍さは他の人との関係をぎこちなくしそうで」
それがメンバー同士の不仲を作るようなことになるのはマルスでなくとも避けたいだろう。
現にそういう関係を持っている人たちはそれなりに考慮して、二人っきりの時間を作るようにしているというのに。
アイクは単純思考だが馬鹿ではない。話せば分かるだろうが、恋愛というのは相談でもない限り第三者が口を出すことではないとマルスは思っている。(もちろん、他の皆もそう思っているはずだ)
「焦ってもダメだよ。アイク君自身が恋を経験するとかしないと理解しずらいんじゃないかな」
「はぁ……」
苦笑いと溜息の向こうには、そんな苦労があるのも知らずいつの間にやら自分から積極的に泥まみれになっているアイクがいた。
あとがき
フラグクラッシャーアイク(笑
他人のフラグまでクラッシュするんじゃないか、いつか(ぉぃ
2008/05/10執筆
2008/12/30修正
幸 ゆきな
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