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毒された大地に立って
素足で感じる大地は冷たかった。
草木は生えない。乾いてないものも、含まれる水分は毒素。
そんな大地に、今まで俺達は立っていたのだ。
「この場所に、花が生えるようになるにはどれぐらいかかるのかな?」
「最低でも後五百年は要するだろうな」
五百年。人間にしてみればなんという長い時間だろうか。
でも俺達は知っている。この大地が毒されたのはつい最近のことではないのを。この世界は、人間にしてみれば生を一つどころか複数終えてしまえるほどの年月の間、毒されたままでいるのだ。
「この大地は死んでしまっているんだよ」
「それは違う」
横にいた連れは驚いたように俺の顔を見た。
「だって、俺が今ここに立てるじゃないか。だったらまだ、死んでなんかいないよ」
そういうと彼は納得したような、どこか感心したような微笑を浮かべた。「 」と繋がる手
「まぁ…自覚がなかったわけじゃねぇんだけどteranoid
気が付いたら手つかんでてさ
一緒に老いて死にたい、いや、生きたいって口に出してた
あー かっこ悪いからよ アイツには言わないでくれよ」
名前とちがって羽根のようにどこかいってしまいそうな気がした
うん よくわかんないけどこわかった、の
そう だから、ね はなしたくないなって思って
うん つかまえようとしたの
そしたら、さ
そっちから 手、つないでくるもん、だから…
うん おどろいた
…つかまえててくれたの そっちだったんだね
うん そうだね 名前の通りだね
そう、彼は唐突に現れた
殴りこむように回した一曲
開始から僅か数秒足らずでその場にいる全てを魅了した
重く響く重低音
満たされる空間
高潮していく声
熱気に相反するかのように冷静な彼
曲が終わった時にはなんともいえぬ気分にさせられる
しかし曲は一曲で終わる
彼は、何事もなかったかのようにそこから立ち去った
彼は一体何者なのか?
ボックスを譲ったものからきくと彼の背には「teranoid」と書いてあったそうだ
瞬く間にその「teranoid」は噂になり、いつの間にやら彼の名前はそれで定着していた
別の名前があるのだろうが、彼は決して名乗らない
ただ一曲だけ
その広くもない空間に満たすために
神出鬼没に現れるのだmermaid_bubble.lzh
「ねぇ、ダイナ」
「なんでしょう?」
「ビィがさ、すっごく大事そうにしてる圧縮データあるじゃん? あれってなんなの?」
「なぜわたしにきくのですか?」
「だって、あなたが一番ビィとの付き合いが長いじゃない。だから知ってると思って」
「わたしはなんでアンナちゃんがそれについてしりたくなったがきになりますね」
「いいじゃないの。知りたいものは知りたい。あなたなんか、いつもそうじゃない」
「それもそうですね」
「で。教えてくれるわよね?」
「あれはですね」
「うんうん」
「“にんぎょひめのあわ”ですよ」
「……へ?」
「あれは、ビィくんの“にんぎょひめのあわ”です」
「ちょっと、それじゃあわからな……ってダイナ!まだ話は終わってないわよ!?」
Cragy
どうかしてる。
けれども、そのどうかしてるというのが、まさしく自分。
「愛してる」
狂おしい程に。
“狂おしい”だなんて、なんて自分にぴったなんだろう。
「愛してるわ」
“狂っている”、まさにそれが私の名。
そう名付けたのは貴方。
「愛してるの」
男は秩序を作りたがるとか、女は欲にまみれてるとか、よく言ったものだ。
貴方は“この世界”を創るための秩序。
私は“この世界”を壊すための欲望。
「愛して」
全ては、貴方と一つになるため。
でもそれっておかしなことよね。
元々、貴方と私は一つだったのに。
「マスター」
「…クレイジー」
一体貴方は自分のどこに“狂っている”と思ったのかしら。
でなければ半身で私に、そんな名前つけなかったでしょう?
「私を支配したいの?」
「私を狂わせたいのか?」
その疑問が解決することはない。
それは恐らく、貴方が何故私を切り離し、名まで与えたのか分からないように。
「愛してる。愛してるわ。愛してるの、マスター」
「…クレイジー」
そうして私は貴方の指に絡みつく。
ああ、もう一つには戻れない。
だから、貴方を愛してるの。
壊してしまいたいぐらいに。
The Phantom of Cyber − “電脳の亡霊”と呼ばれる男
私がその男と会ったのは、殺風景な丘。
何もない不毛の大地だが、一本だけ貧弱そうだが力強く立っている一本の樹が何故かある場所。
「何をしてるんですか?」
男の手には綺麗なリボンで一つの束にしてあるものが握られていた。
「墓参りだよ。友人のね」
そう言って男はその束を樹の根元に添えた。
この樹の下に誰かが埋まっているなんて、初めて聞く話だ。
「花を見るのは初めてかね?」
「保存容器に入ってるものしか見たことないわ」
「そうか」
男は私を見るなり不敵な笑みを浮かべた。
目を映し出さないサングラスのせいか、かなり怪しく見える。
「マーガレットと言う花でね。友人が好きだったものだ。
しかし私には何故この花が好きだったのかは未だに疑問に思う。
私にとって花は花であり、マーガレットだの、バラだの個別に名前を覚えるほどの興味はなかった」
「……」
本当、全くもって怪しい男だ。
「人は何故、ものに名を付けるのだろうか。
個を分けるためか。しかし、その名は人が勝手に付けたもので、真の名は違うかもしれない。
それでも人は名付けずにはいられない。特に、真新しいもの、珍しいもの、異質なものなどには。
付けられる身としては迷惑かもしれんのにな。
私は花ではないから花の気持ちなど解らないが、勝手に名を付けられ、勝手に呼ばれる迷惑さは感じているよ」
「…………」
「おっと、すまないね。
“生身”で会話するのは数年ぶりなのでな。ついこの語りたがる口を止めることができなかった」
男は、クックッと典型的怪しい笑い声を漏らした。
そして私の名を、ユイと一言呼びかけてから、言った。
――私が、ファントムと勝手に呼ばれている者だ、と