コンピューターという玉座に座らされてから、大体半年。
 充電のための休止時間が待ち遠しかった。
 その数時間だけが“睡眠”が許されるから。
 とは言っても完全にコンピューターから切り離されているわけではないので、多少なりノイズが頭に響くこともある。
 でも最近、その睡眠時にノイズと混じって誰かが意識にアプローチをかけてくる。
 自分が作り出した睡眠用の架空サーバーに意識を落としているのに、そいつはいとも容易く潜り込んでくる。
 睡眠時は通常の五十パーセント程しか意識が働かないため、例えるならば“夢を見ている”のような感覚――実際に夢なんて見たことないけれど、レム睡眠と同じ状態でもあるのでそれが一番しっくりくる表現だ。
 まあ、そいつが無害だから、こうやってアプローチを受け入れているわけなんだけども。
 で、今日もそいつは俺のところにきてる。

―ねぇ、アンタ誰?

 こっちからアプローチをかけても、向こうは答えようとしない。
 睡眠状態であることと余分なノイズのせいで、相手の姿もうまく認知できない。
 せめてどこからアクセスしているのかだけでも、と思ったのだが、相手はその痕跡を全く残していない。
 研究所内の誰かなのか、相当手練れのハッカーなのか。いずれにせよ誰か分からないのは不愉快でしかない。
 その一方でこいつが現れる度に、何故か懐かしさを覚える。

―俺は……アンタと会ったことあるの?

 その質問ですら、答えは返ってこない。
 多少の苛立ちは感じるものも、これといって焦燥感はない。
 安心、しているのだろうか。今まで感じたことのない何かに。
 不意に頬を撫でられる感覚がした。けれども、撫でている手は見えない。
 こんな風にされるの嫌じゃないのは何故だろう。

―なんで寝てる時にくるの?

 そういえば、大昔にあったっていうお話の中に『眠り姫』とかいうのがあった気がする。
 なんでも、お姫様は王子様と出会う前に夢で出会ってたとか。
 じゃあ、俺はお姫様か、というと絶対に違う。
 でも、そのお姫様の気持ちが少しだけ分かった気がした。

―会ってみたい。ココじゃなくて、外で。

 声も姿も性別すらも分からないけど、こんな風に夢の中までやってくる人物に。
 そう考えていたら、また不意に触られている――いや、後ろから抱きしめられている感覚がした。

―時が来れば、いずれ会いに行く。

 初めての返答。
 音ではなく、0と1で出来た文が直接頭に叩きつけられただけだけど。
 嬉しかった。

―約束だよ。
―約束しよう。

 その瞬間だけ、自分の胸の辺りに誰かの手が添えられているのが見えた。
 そしていつものように、そいつは去って行って、意識はまどろんでいった。




「思えば、あの時はこんな変態だとは思ってなかったんだけどなぁ……」
「変態とは、失礼だね」
「俺の淡い数ヶ月間を返せー」






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エレチュン、その時9歳ぐらい(ぇ
ホリックは18歳前後(ぇぇぇ
これでもホリエレだヨ(何

2005/08/23 幸ゆきな