街に出れば建物も街路樹も色とりどりのイルミネーションで輝いていて。
 少し視線を逸らせば、赤と緑を基調とした飾りつけとてっぺんに星をつけたキラキラしているもみの木。
 そう、時期はもうクリスマス。一年のうちで街が一番光が満ちている時期。
 ROOTS26でも内装はクリスマスの飾りつけにしたし、Xenon−世音−でもクリスマスイベントをやると兄さんがはりきっていたのが目に浮かぶ。
 今年はどんな企画にしたのかまだ聞いていないのでそれも楽しみだけれども、それ以上に楽しみなことが一つあった。
「あ、サンタさんだ〜!」
 そう言ってリリスの前を一人の女の子が駆けていき、ケーキ屋の前にいたサンタクロースをまじまじと見つめていた。
 私もそんなことをしていた時があったっけ。




 そう、あれは小学生の時のクリスマスシーズンだったと思う。
「知ってるか、サンタっていい子にしてるだけじゃ来ないんだぜ!」
 クラスの男子の一人がそう騒ぎ出したのだ。
 そういう騒ぎ事は昔も好きじゃなかった私は、その時はただそれを聞いているだけだった。
「じゃあどうすれば来るんだよ?」
 その時教室にしたみんながその話に釘付けだった。
「サンタはなぁ…いい子にしててなおかつ親孝行してないとダメなんだぜ〜。
 だから親がいない家にはこないんだぜ!」
「うそよ!!」
 いつの間にか私は立ち上がってそう叫んでいた。今思えばなんでそんなことをしてしまったんだろうと思う。
「だって私の家にも毎年サンタはくるもの!」
「お前こそウソだろ!」
「サンタが来ないからってひがんでじゃねぇの?」
「ちがうもん! ちゃんと毎年プレゼント置いていってくれるんだから!!」
「サンタはなぁ、子供が起きて姿が見られてもいいようにそこの家の父親に変身してやってくるんだぜ!?
 だから、親がいないお前んちにはこないんだよ!!」
「サンタはくるもん!!!」


「誰だそんなこと言った奴は…!!」
 泣きながら帰ってくるものだから兄さんは大慌てで、事情を話したら兄さんは今にも飛び出してその男子を殴ってやりたいといわんばかりに激怒した。
 そんな兄さんをよそに私はまだ泣いていて、泣き顔を見せまいと顔をうつむかせながら兄さんの袖を引っ張った。
「そんな、こと……えぐっ……ないよね? サンタさん……くるよ、ね…?」
「もちろんさ。理々奈は普段いい子にしてるから絶対にくるさ」
「ほん、と……? お父さんやお母さんいなくても……?」
「ああ。だからもう泣くのはやめ、な? あんまり泣いてるとサンタさん、これなくなっちゃうぞ?」
「……うん」
 慰めてくれる兄さんの笑顔に自然と私も泣くのをやめて笑顔になった。
 そうしてその年はサンタからのプレゼントと兄さんからのプレゼント、二つのクリスマスプレゼントをもらった。
 私の喜びようはかなりのものだったからか、それから私は毎年プレゼントを二つもらうようになった。




 今考えればあの頃は生活以外で何か買うほど余裕はなかったのに、すごくわがままをしていたと思う。
 もちろん、普段はあまりものを欲しがったりはしなかったのだけれど、なぜかクリスマスは別だった。
 きっとイルミネーションやツリーの華やかさにうかれてしまっていたのかもしれない。
「どうした理々奈。何か欲しいものでもあるのか?」
 今でもプレゼントは二つもらう。
 もちろん兄さんもこの年でまだサンタを信じているとは思ってはないのだろうけれど、それでも毎年クリスマスイブの夜にこっそりと枕元にプレゼントを置いた後、朝にまた別のプレゼントを渡してくる。
 それがとても嬉しい。プレゼントが二つもらえるからではなくて、兄さんの気持ちが。
「ねぇ、兄さん」
「ん?」
「今年もサンタはウチにくるかしら?」
 クスクス笑いながら尋ねると、兄さんもクスクス笑いながら答えてくれた。
「ああ、今年もやってくるさ」
 その一言を聞いて私は心の中でサンタクロースがくる夜を心待ちにした。
 できれば赤い棘はいらないから白い髭の変わりに黒い髭をつけて欲しい、なんて冗談を考えながら。





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真のタイトルは「今年も蟹サンタがやってくる」で(ぉぃ
てか、親がいないとこないサンタってどんなサンタだよww

2005/12/21 幸ゆきな